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「きみのことを色々と頼まれたけど、何か困ってることは？」
ひどく優しい声だったけれど、私はそれを無批判に受け入れることができるほどに幼くはなかった。
「いえ･･････特には」
そう言った私に、スマイルさんはそれ以上深入りする気もなかったらしい。コーヒーを飲み終えると、まるで自然な様子で彼は立ち上がった。「そう。それじゃあ」と微笑を浮かべながら言うので、「どこへ？」と慌てて声をかけてしまったが、言い終わったあたりでどこか泊まる当てでもあるのだろうと思い当たった。しかし彼は「そうだな」と思案するような顔つきで目を伏せる。
「適当にネットカフェにでも泊まる」
止めるなと言う方が無理な話だ。
お風呂に入ってもらっている間に、久しぶりに人のために食事を作った。兄の部屋着に着替えたスマイルさんは特に何もコメントせずに食べてくれていたけれど、ありあわせのもので作った野菜炒めなんてもしかしたら口に合わなかったのかもしれない。
綺麗な手つきで箸を使うスマイルさんは、酷く絵になった。私たちの間には何となく重苦しい空気が流れているように思えて、兄の話を聞かせてもらいたかったのに、私は何だか口を開いてはいけないような気持ちになってしまった。ちら、と彼の方を見ても、スマイルさんは黙々と食事を続けている。きれいな顔の、凛とした風貌をした人だからか、何となく近寄りがたく思える。
「ごちそうさまでした」
食器を下げようと立ち上がった彼を慌てて制すると、スマイルさんは素直に引き下がる。「Aの部屋にいるから、何かあったら呼んでくれ」そう言い残してさっさと兄の部屋に向かってしまったその後ろ姿が見えなくなったあたりで、こっそりため息を吐いた。
米粒の一つも残されていない食器を眺めながら、私はまだ半分以上も残った野菜炒めを咀嚼する。味がしないのは私の調理に問題があったのか、それとも味覚が狂っているのか。後者であってほしいところだけれど、彼の反応を見るに前者であった可能性も高い。「はあ･･････」口の中のものを呑み込んで、再び息を吐く。
「上手くやっていける自信がない･･････」
私が神経を尖らせていることを察して気を利かせてくれたのかもしれないけれど、できるなら食後くらいはゆっくりお茶でも飲んでいってほしかった。冷めきったお味噌汁を一口飲む。消えてしまった兄のことを思いながら、私は項垂れた。
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作者名：やなぎ | 作成日時：2024年1月21日 12時
