【WT】さよならを後ろから数える【sm】 (ページ6)

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年の瀬も迫った十二月一日の夕方だった。大学から帰った私は部屋の前で首を傾げる。今朝確実に閉めていったはずのマンションの鍵が開いていたのだ。戸締りだけはしっかりしておけと両親からも兄からも躾けられた私だ。鍵を閉め忘れるだなんてことは考えられない。

だからこそ、ある可能性に気が付いた瞬間に心臓が鳴った。半年前、突然姿を消してしまった兄が戻ってきたのかもしれないことに思い当たったのだ。慌ててドアノブを回して部屋に飛び込んだ瞬間、室内の電気が灯されていることに気が付いた。

「お兄ちゃん！？」

半ば確信めいた叫びだった。半年前の梅雨の時期、兄は忽然と姿を消した。仕事を終えて、二人で夕食をとった後、コンビニに行くと言い残してそのまま帰ってこなかったのだ。財布だけを持って出て行ったから、兄の携帯は今でも兄の部屋だ。警察に捜索願を出して、六カ月。事故や事件に巻き込まれた形跡もなく、神隠しにでも遭ったのではないかと言う思いを殺すように、いつか帰ってくると自身に言い聞かせ続けていた。その兄が本当に帰ってきたのかもしれない。そう思ったのだ。

けれど、扉の向こうで待っていたのは、見たことのない男の人だったから、その後に続くはずの言葉はすっかり失われた。人間、想定外の事実を目の当たりにすると、思考が停止するらしい。

多分、年は私とそんなに変わらないか少し上くらいだ。少しだけ癖のあるダークブラウンの髪、目元はどこか涼しげで、深い茶のタートルネックに包まれた身体つきは細く引き締まっている。兄とは真反対の、精悍な男性だ。玄関のたたきで立ち尽くす私を、玄関マットに膝をついて出迎えた彼は「初めまして」と深々頭を下げた。

「･･････私、部屋間違えました？」

問いかけながら、目線を周囲に投げる。花柄の玄関マットは亡くなった母が好んでいたものだし、靴箱の上には小学生の時に行った遊園地で撮った家族写真が飾られている。玄関に並んだ私のスリッポンと兄が仕事に行くときに履いていた革靴、それらの全てはどう見たって朝私が家を出たときと何一つ変わっていない。「いいえ」と彼は私の質問に首を振る。