【WT】さよならを後ろから数える【sm】 (ページ49)

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帰ってきたときは赤かった頬は、今はもう普段の彼女のそれとほとんど大差なかった。大事に至らなかったことは安堵すべきだろう。今までずっと眠っていたのだと彼女は言ったが、本当に休めていたかは定かではない。瞼は少し腫れているように思えたが、しかし不自然なほどに声だけが明るかった。

マグカップに両手を添えたAさんは、俺の問いかけに言葉を噤む。口を何度か開きかけて、酸素を取り込むだけ取り込んで、結局言葉を作ることが出来ずにため息を吐く。目線はずっとマグカップの中に落ちたまま、動かない。

一日中降り続いた雨はやや雨足を強くしているようだ。伊能忠敬が作り上げた日本地図を脳に浮かべる、このあたりは元々一年中雨が降りやすい地域であるらしいが、特に冬になるとほとんど晴れ間は見られないらしい。
この冬の寒さは厳しい。Aさんは、マグカップから手を放してかけていたひざ掛けを握りしめる。

「･･････スマイルさん･･････」

それは、絞り出したような声だった。深く息を吐いて、俯いた彼女の頭蓋の形は丸い。

「･･････すみません」

Aさんは、十分すぎるほどの間を開けてから語り始めた。二年前に遡り、過去を紡ぐ、彼女の瞳はどこまでも深く、暗い。俺はその話を、ただ黙って聞いている。