【WT】さよならを後ろから数える【sm】 (ページ46)

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「･･････そうだ。スマイルさん、日曜日に借りた本は読み終わりそうですか？何冊借りたんでしたっけ」

「五冊。明日には読み終わりそうだから、日中返却だけしてこようかと思ってた」

「はやっ。ほんとにスマイルさんって読むの早いですよね。集中力もすごいし」

「そうかな。気が付くと夕方になっていることが多いのが俺としては困るんだけど」

「ああー、本を読んでいるときにノックしても気付いてもらえないのは、私も困る」

「悪かったって」

お互いの腹の底を探り合うような会話だった。私はけれど、次の話題を探すことができない。先に相手の体から手を抜いたほうが負けだ、分かっていたのに、私は目を伏せる。少し冷め始めたマグカップを両手で包み込む。まるでそこに自分の心臓があるとでもいうかのように。しかし私の薄い皮膚とやわい骨で一体何が守れたのだろう。「Aさん」私に向かって吐き出されるスマイルさんの声は、低い。

「話してくれないか」

視線を下げて、マグカップの縁を見つめる。白い陶器のそれは、私が口をつけた部分だけコーヒーの汚れがこびりついていた。執着のように。