twelfth day ページ45
「コーヒー、自分で淹れたんですね」
「ああ、悪い。Aさんがいない間に何度か飲んだ」
「いえ、良いんです全然、それは、はい。どうぞいくらでも、超安い粉のやつですけど」
欠伸を噛み殺しながらリビングにかけられた時計を見る。深夜の十二時を回ってから一時間と三十分、眠っている間に日付を跨いでしまったらしい。スマイルさんが淹れてくれたインスタントコーヒーは私が作るものよりも少しだけ濃く、苦みが強い。ここからでは見えないが、調理台の奥に置いたゴミ箱の中には先ほど夕飯代わりに食べた冷凍パスタの残骸が放り込まれている。スマイルさんがここにやってきて初めて、ああいったものを口にした気がする。
「すみません、ご飯、あんなもので」
「いや。というか、普段からあんなに手の込んだ料理を作ってもらわなくとも俺は構わないけど」
「いやいや、それはさすがに。私がしたくてしてることなんで」
「そう。きみの料理は美味しいから、そう言ってもらえると有難い」
「美味しい？」
彼の発言に思わず顔をあげる。四人掛けのダイニングテーブルに向かいあって座っていたスマイルさんは、マグカップに手を添えながら穏やかな双眸を私に向けたままでいた。
「え、美味しいですか？本当に？」
「ああ。どれを食べても美味しいと思う。きみの料理、好きだけど」
「え、え、うそ、だっていっつも無言で食べてるし」
他に食べるものがないから仕方なく口に入れているのだと言われてもおかしくないと思っていたが、私の言葉にスマイルさんは心底不思議そうな表情を浮かべていた。「勘違いさせてたなら、悪い。美味しいと思ってるよ」そう言いながら僅かに口元を緩める。その表情に何だか眩暈に似たものを覚えるのは、気のせいなのだろうか。これ以上この話題を続けるのが億劫で、私は熱を持った頬に手を添えながら自然を装って話を逸らした。
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作者名：やなぎ | 作成日時：2024年1月21日 12時
