【WT】さよならを後ろから数える【sm】 (ページ43)

今日:30 hit、昨日:6 hit、合計:9,922 hit

･ページ43

一度は連絡先を消したはずの彼から再び連絡があったのは、今年の七月のことだった。

午前の授業を終えると、いつも昼食を共にしていた友人に断りを入れてから私はすぐに教室を出た。帽子を目深にかぶってマスクをつけて、高校生のときに着ていたコートを羽織ってから足早に廊下を駆ける。すれ違う学生たちの視線から逃げる様に俯いて、この校舎から程近い西門を目指す私に何も奇妙な点などない。肩から掛けたバッグの紐を縋るように握りしめ、小雨で濡れた石畳を駆け抜けた。折りたたみ傘をさすほどではないと思ったけれど、校門を抜ける頃には少しだけ雨足が強くなり始めた。仕方なしに鞄から赤い花柄の傘をさす。どこにでもビニール傘を置いてきてしまう私にお兄ちゃんがプレゼントしてくれたその傘は、一体いつから使っていたものだったか。

駅へと向かう学生の流れに逆らうように、私は徒歩数十分程度のマンションへと向かう。天気が良ければ自転車で通学できるのに、最近はほとんど徒歩だ。小走りで駆けながら、だんだん下腹が痛くなってきたことに気が付く。元々体力がない私は、ほんの少しの距離を走るだけで息が切れる。天気が悪いとなるとなおさらだ。
だけど、今ここで足を止めてしまえば背後から肩を叩かれてしまう気がする。ねめつくような視線に囚われて、二度と身動きが取れなくなってしまうのではないかとすら思ってしまう。

･→←･