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月曜日の朝、Aさんはいつも通りの時間に起きていつも通りの朝食を作った。根菜の入ったスープに半熟の目玉焼き、付け合せのサラダは人参のスライスが彩りを添えている。「スマイルさん」表情に出さないようにしながら咀嚼する俺に、向かいの椅子に座ったAさんは昨日の物憂げな表情が見間違えだったのではないかと思うほどに明るい笑顔を見せた。
「今日は月曜日なので、お昼過ぎに戻ります」
「ああ、そうだったな」
確か先週の月曜日は一緒に服を買いに出かけたのだったか。あの日彼女が選んでくれたシャツやカーディガンは、センスがあまりよくはないと思ったものの着ているとだんだん愛着がわいてくるから不思議だ。本来ならば絶対に身に着けないような胸元に刺繍されたクマの生首と目が合う。
Aさんはあれから二日が経った今も、何も言わない。あの男に怯えていたように見えたのは、ひょっとしたら俺の勘違いだったのだろうかと考えて、心の中で首を振る。あれが杞憂であるならば、どれだけいいだろう。背の高い細身の男性だった。顔はあまり覚えていないけれど、そう悪くはない顔立ちだったように思う。恋人というわけではないだろう。それでも彼女に深く関係する人物であることは間違いない。
「あとですね、これなんですけど」
食事をしながら様々な憶測を吐いては捨てる俺に、彼女が何かをテーブルに置いた。瞬間、その手のひらの中で微かに金属の擦れる音がする。「持っていてください」困ったような笑顔を浮かべる彼女は、俺が跳ねのけるとても思っているのだろうか。それは1年前にAが俺に持たせた、この部屋の鍵だった。
「この財布に入ってる金はさ、好きに使ってくれよ。迷惑料だとでも思ってさ。鍵も、もしもスマイルが行ったときに妹が不在だったらそれ使ってあがっててくれていいし」
「それは不法侵入だろ」
「俺が良いって言ってんだから良いんだって」
「そういう問題じゃない」
結局使うことになってしまった鍵は確かに手紙と共にAさんに渡した。あの夜、自身にとっては途方もなかっただろう話を聞いた彼女は、汚れた猫を模した飾りを無言で撫でた。そのときよりもどこか俺の記憶よりもやや色合いが明るくなったような気がするのは、思い違いか。
支度を終えて学校へと出かけたAさんを見送った後、俺はその猫のぱんぱんに膨れた腹をなぞるが、俺の欲しい答えはそのどこにも隠されてはいないようだった。
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作者名：やなぎ | 作成日時：2024年1月21日 12時
