【WT】さよならを後ろから数える【sm】 (ページ41)

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eleventh day ページ41

朝起きても、数日前からの頭痛は取れていなかった。六畳に満たない小さな和室で目を覚ました私は、ほとんどまともに見えていないぼやけた視界の中、花柄の布団を握りしめる。

まさか彼が家の前までやってくるとは思わなかった。一度も家にあげたことはなかったけれど、何度かマンションの前まで送ってもらったことがあったことを今更思い出して、自身の迂闊さを呪う。もしかしたら気づいていなかっただけで、今までもこういったことがあったのかもしれない。考えるだけで寒気がする。

のそりと起き上がって、呻きながら立てた膝に顔を埋める。お兄ちゃんが私にくれた手紙は今も机の上だ。所在を確認すると同時にその横に置いてある鍵が視界に入って、私はふと、それをスマイルさんに渡しておいた方が良いのではないかと考える。折角昨日、一昨日と近所を案内したのだ。一日中家に籠って本ばかり読んでいるというのも不健康だろうし、彼本人も私が居ない日中にも自由に出歩きたいと思っているかもしれない。

「･･････」

スマイルさんのことを考えると、胸の奥がじんと痛むような心地がするけれど、それがどういった感情によるものなのかは私には分からない。有り難さよりも、申し訳なさの方が強いのかもしれない。お兄ちゃんに無理矢理私のことを頼まれた彼は、善意で私の傍にいてくれてるんだろうけど。

助けてもらってしまった。仔細なんて知る由もないのに、スマイルさんは私が、マンションの前で待ち構えていた彼に見つからないように肩を抱きかかえて踵を返してくれた。そのときの力強い手のひらはともすれば痛い位の力が込められていた。だから、問い質されると思ったのだ。あの人は誰なのか、それを知る権利はあるはずだと。だけど彼はそうしなかった。

理由も分からずお腹の底がたまらなく痛んで、それを逃がすようにもう一度膝に顔を埋めて、細く長く、息を吐く。