【WT】さよならを後ろから数える【sm】 (ページ5)

今日:5 hit、昨日:6 hit、合計:9,897 hit

first day ページ5

明日が土曜日で助かった。私は布団の中で目を開けたまま、カーテンの隙間から窓の外を窺う。十二月の夜はなんとなく、普段より暗い気がする。静かな空を眺めていても、眠気なんて襲ってこなかった。

ぼんやりとスマホ画面を見つめながら、私はつい数時間前のことを思う。彼は突然私の家に現れた。
夢と言われれば信じてしまうくらいに非現実的な話であったが、夢ではない。枕元に置かれた「Aへ」と書かれた封筒は変わらずそこにあるし、猫のキーホルダーがついた我が家の鍵は、間違いなく長年兄が使っていたものだった。そして、見覚えのある黒い革財布。それが兄が買い換える前に使っていた、元々父のものだった財布だとすぐに分かった。兄は前使ってたのは処分したと言っていたけど、人に預けていたなんて知らなかった。私はその中身を、確認することもできない。

「･･････お兄ちゃん」

掠れた声は、随分と頼りなかった。

「わけわかんないよ」

「彼」が眠っている部屋は廊下を出た先だ。聞こえることはないと知っていながらも布団を頭まで被って呟く。握りしめた鍵は、私の手のひらの中で温くなっていく。