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こうしてみると、スマイルさんって本当に読書家だなあと思う。兄が学生時代に使っていた問題集まで眺めていたときはぎょっとしたが、彼がこうして読書に没頭できるタイプの人間でなければ、私もまたさらに彼に気を遣わねばならなかっただろうから、その点に関しては幸運だったのかもしれない。
「なに？」
スマイルさんが本を読んでいるのをいいことにまじまじと眺めすぎただろうか。顔をあげもしないくせに、スマイルさんは額のあたりにもう一つ目でもついているかのように言うから、「どうして見てるってわかるんですか？」と答える。
「分かりやすいんだよ。きみ」
「ええ〜！」
「ふふ。そういう顔はAに似てる」
唐突に兄の話を出されて、私は思わず言葉に詰まる。何の他意もなさそうに兄の名前を出したスマイルさんは、私の僅かな逡巡に気付きはしなかったはずだ。「･･････そうですか？」気に入っているマグカップの柄を指先でなぞる。
「嬉しくない？」
「嬉しいと思います？二十歳も過ぎたってのにお兄ちゃんに顔が似てるって言われて喜ぶ子、いませんよ」
「そんなもんか」
「そんなもんです〜」
腕を枕にして彼から目を逸らす。窓を叩く雨音に、「明日は晴れますかねえ」と呟く。スマイルさんがこの家にやってきてから二度目の土曜日だ。先週は一人で外に放り出してしまったし、服を買いに行ったときも他に寄り道はしなかった。当てもなく出かけるとなると少し緊張してしまうが、その前に案内する、と昨日の朝に口走ってしまった程度のあの約束を、彼は果たして覚えているのだろうか。
ちらりと彼の方を盗み見たけれど、スマイルさんは既に読書の方に意識を向けていた。少しだけその様子を見守っていたけれど、彼の目の動きの速さとページを捲るスピードについていけず、私は早々に返事を待つのを諦めて、炬燵テーブルの真ん中にあるティッシュボックスから数枚ティッシュをとる。
簡単なてるてるぼうずを作る私に、気がつけばスマイルさんが興味深げな目線を送っていたけれど、私は先ほど返事をしてもらえなかった仕返しとばかりに彼の視線に気が付かないふりをするのだった。
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作者名：やなぎ | 作成日時：2024年1月21日 12時
