･ ページ28
もしかしたら、上の方だろうか。そう思いながらクローゼットの上部収納を見上げると、ふた付きの収納ボックスがきれいに並べられている。あの中のどれかに入っていそうな気がする。そう思いながら背伸びをしてみても、側面に指先が触れるだけで下ろすには圧倒的に身長が足りない。諦めて椅子を取りにキッチンの方に向かうと、リビングの方からスマイルさんが「あった？」と尋ねてきたので、私は口を尖らせて首を振った。
「お兄ちゃんが片付けたから、もしかしたら高いところにあるのかなと思って。これから探します」
「俺でよかったら手伝う、と言いたいところだけど、両親の寝室に立ち入るわけにはいかないな」
「ああ、立ち入ってもらっても平気なんですけど、椅子があれば届くので大丈夫です。スマイルさんはテレビでも見てて待っててくださいね。洗脳されないように」
「ああ、うん、そうだな。気を付けるよ」
私の言葉に、彼は含み笑いを浮かべる。昨日林檎を食べながらバラエティ番組を漫然と眺めていたスマイルさんは「共通の価値観を埋め込むのに適しているな」と呟いた。相変わらず面倒なことを考えているんだなと思いながら林檎を咀嚼していると、見透かすようにスマイルさんは私の方に視線を投げ、「まぁきみは洗脳なんて大袈裟だと言うんだろうけど」と微笑んだので、私はつい笑って「正解です」と素直に口にしたのだ。
スマイルさんを置いて、椅子を持って両親の寝室に戻ると、それを足場にして収納ボックスに手を伸ばす。整理整頓が好きだった母らしく、良く見ると持ち手の部分に「季節外衣類」「マット類(小)」などと書かれたタグが付けられていた。一応中を確認してみたけれど、中身とタグは完全に一致している。さすがのお兄ちゃんもこんなところにケーブルを放り込むような真似はしないだろう。その中に一つだけ「雑貨類・ドライバー」と書かれたタグが合ったので期待と共に開けて見たが、そこにもケーブルはなかった。がっかりして蓋を閉じ、椅子から降りようとした瞬間、しかし私は盛大に椅子の座面を踏み外した。
「わっ！？」
派手に落下することはなかったけれど、慌ててしまったせいか私は先ほど自分が床に出したプラスチック製のボックスに、つま先を強打する。声にならない悲鳴をあげながら、私はつま先を抑えて蹲った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 77人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：やなぎ | 作成日時：2024年1月21日 12時
