fifth day ページ24
スマイルさんは日がな兄の部屋にある本を読んでいるらしい。ああ見えて読書家だった兄の部屋は確かに本が好きな人にとっては宝の山だろう。
「スマイルさーん」
夕食の後、いつものように部屋に戻ったスマイルさんはまだ眠っているわけでもないだろうに、部屋の外から声をかけても全く反応がない。どれほど集中しているんだろう。
剥いた林檎は一人では食べきれないから、一緒にどうかと思ったけれど、返事がないのでは仕方がない。と、数日前までの私なら思っただろう。私はすう、と息を吸うとお腹にめいっぱいの力をこめて叫んだ。これでダメだったら本当にこちらから扉を開けてやる、と考えながら。
「スーマーイールーさーんー！」
この声量では、さすがに彼の耳にも届いたのだろう。兄の部屋着の上に昨日私と一緒に買いにいったカーディガンを羽織ったスマイルさんは、それから少しの間を置いて「なに？」と何でもないように扉から顔を出した。
「･･････林檎食べます？」
「ああ、ありがとう。いただきます」
スマイルさんは厚い本に指を挟んだまま、薄く微笑む。どれだけ集中していたら私の声が聴こえないというのだろう。
しかし何というか、相変わらず膜を張ったような笑みを作る人だ。彼が着ているカーディガンの胸元に刺繍されたワンポイントのひげ面紳士がとても可愛い。けれど、着ている本人はあまり可愛くはないということを、私は既に心得ている。
「居間まで来てください。じゃないとあげません」
眉根を寄せた私に、スマイルさんは一瞬不思議そうな目をした後、得心がいったように小さく頷いた。この、人を見透かすような表情はどうにかならないものか。どこか笑いを噛み殺すように僅かに俯いた彼は、本から栞代わりにしていたのだろう指を引き抜いた。
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作者名：やなぎ | 作成日時：2024年1月21日 12時
