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「俺に何かあったとき、妹を支えてやってくれないか」
縁起でもない。大体、それなら女性に頼むのが筋だろうが。そう言って突き放すつもりでいたのに、顔をあげたAは酷く真剣な眼差しで俺を見つめていた。
Aの両親は亡くなっていると聞いた。三年前、事故で二人をいっぺんに失ってしまったらしい。それからは妹と二人で暮らしていたと言うのが、酒が入ると必ずといっていいほど語りだすAの昔話であった。
妹は世間知らずで、すぐに人に騙されるお人好し。料理はそこそこ上手いけど面倒くさがりだから一人じゃまともなものを食べないだろう。掃除もできないからきっと家は散らかってるはずだ。お酒にめっぽう弱くて、男を見る目がない。大学に入って付き合った男は特に最悪で、別れた後もしつこくつきまとうようなやつだった。甘いもの好き、可愛いものが好き、極度の寒がりのくせにいまだにストーブの灯油が自分一人では入れられない。お節介で、いい子だから、心配だ。
彼が妹を大切に思っていることはよくわかった。だから、彼が妹を残してしまうことを心配しているのを知らなかったわけではない。「俺が居なくても、大丈夫だとは思えないんだよ。どうしても」酒が入らなければ漏らさない彼の弱音を聞いていたのは俺だけだ。
「ちょっとの間だけでいいんだ。本当に、ずっと面倒見てほしいなんて言わないからさ･･････頼むよ」
睡眠時間を削っていたんだろう。最近のAは酷くぼんやりとしていた。飲み屋で女性に話しかけられても生返事をしていたことに彼自身が気づけないくらいには。俺は縋りつくAを振りほどきながら、ため息を吐く。
「･･････具体的には、俺は何をどうすればいいんだよ」
「え、スマイル、いいの」
「俺が頷かない限り、この話終わらないだろ」
「ま、マジでいいの、マジ、スマイル、お前やっぱ超いいやつ･･････」
「分かったから、まとわりつくな。で、何をすれば？」
同情してしまったのだ。家族を失って途方に暮れるだろう一人の顔も知らない女性にではなく、肉親のことを思うあまりに日常生活に支障を来たしている目の前の友人に。
だけど、もう少し考えてから返事をすべきであったかもしれない。「そうだな、冬がいい」Aは満面の笑みで俺の両手を握る。
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作者名：やなぎ | 作成日時：2024年1月21日 12時
