【WT】さよならを後ろから数える【sm】 (ページ15)

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どれほどそうして待っていただろうか。陽が暮れた頃玄関の扉が開いた。「お兄ちゃん！？」そう叫びながら部屋に飛び込んできた彼女と目があった瞬間、悲鳴を上げられるかと思ったが、彼女はそうはしなかった。肝が据わっているのか、賢いのか。
俺の差し出した手紙を困惑の表情で受け取った彼女は、そこにあった内容をとりあえずは信じたらしい。ただ、俺自身を信頼するには至ってはいないようだったが。

いや、警戒してくれて構わないのだ。むしろ何の躊躇もなく心を開かれていたら、それはそれで俺の方が戸惑っただろう。成人した女性が得体の知れぬ男の言い分をほいほい信じるようならば、あまりにもこの先が不安だ。Aの言い分では彼女にはそういったところがあるのではないかと思っていたが、あれならばA本人よりもしっかりしているように見える。Aの心配は全て杞憂に終わったということだ。本人だって、困っていることは特にないと言っていたではないか。

まあ、本当にあったところで見ず知らずの他人同然の俺に漏らすとは思えないが。
そういうところに思い当たらないAは、恐らく妹に関しては極端に視野が狭まるのだろう。

出ていくと言ったのに、彼女は俺を引き止めた。真冬だから寒いだろうとか、兄の部屋が空いているから、と必死に訴えられたが、俺がここにいて迷惑なのは彼女の方ではないのだろうか。
他人と過ごすのは窮屈で気が休まらないだろうことは目に見えているのに、彼女はそれでも引き止めてくれた。

とは言っても、期限は一カ月だ。大切なことは何一つ書いてはいなかったというAの手紙にも、それくらいは書いてあっただろうし、ほんの一カ月くらいならばただの置物と思って接していればいいとでも思ったのかもしれない。俺は二つ返事で、彼女の申し出を有り難く受け入れることにした。休暇もとってしまったし、俺も三十日の間、のんびりさせてもらうことにしよう。

信号が青に変わって、あてもなく歩いていると、店が立ち並ぶ界隈に出た。明るい音楽や灯につられるように、俺はそちらに向かって歩き出す。