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「あ、そうだ。待ってる間、テレビでも見ますか」
「どんな?」
「あー、ええと、そうですね、なんか、こんなかんじの」
スマイルさんの傍まで駆け寄って、私はテーブルの上にあったリモコンを手に取って電源をつけた。ダイニングの広さからするとそこまで大きくない薄型のテレビは、ニュース番組件バラエティのようなものを映し出す。冬の特集、今、あのデザートが大ブーム!と流れたテロップに、スマイルさんは得心のいった様子で頷いているので、番組が気に入らなかったわけではないらしい。
「洗脳に使えそうだよな」
「はあ、洗脳ですか」
「一方的に偏った情報を発信し続けられればそれが正しいと思ってしまうのが人間だろ。例えば、今このデザートが人気らしいけど、その人気の基準とは?何人が食べ、何人が美味しいと思えば人気になるのか。明確な線引きがあるのか?」
「ああ、ないんじゃないですかね」
「つまり情報を発信する側はこのデザートを人気だと思わせることで何らかのメリットがあるのかもしれない」
「そんな真面目なこと考えてないで、気軽に見てください」
話を聞いてたら段々イライラしてきた。この一瞬でそこまで考えが進んだことは驚くべきことだけれど、それでもなんだか面倒くさい。私の語気がやや荒くなったことに気が付いたのか、スマイルさんはテレビ画面から視線を私に移す。
その双眸がこちらを向いた瞬間、呼吸が止まった。私の感情が昂ぶったことに対してなのか、僅かにその目が細められる。浮かんだ微笑は、どこか懐かしいものを見ているかのように優しい。
「ふふ、そうだな。悪い」
何だか馬鹿にされたような気がするのは私の思い込みか。私は眉根を寄せたまま、キッチンの方に戻った。
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作者名:やなぎ | 作成日時:2024年1月21日 12時