one year ago ページ1
「頼む、お願い、この通り」
両手を腰の横に添えて、直角９０度の礼をしたまま微動だにしないこの男、Aは大学生の時に知り合った、いわゆる同期だ。
普段は無口で冷静沈着、他者と慣れ合うことをほとんどしないと言ってもいいAは、反応の薄い俺を察してさらに頭を垂れた。このまま黙っていれば土下座でもしかねない勢いだ。
こんなところを他人に見られたら彼の評価は一変するであろうことは疑いようがないが、生憎ここは俺の自室だ。相談したいことがあるというから読書を中断してまで入れてやったというのに、こいつは全くもって受け入れがたい頼みごとをしてくるのだから閉口する。
「お前にしか頼めないんだよこんなこと、俺を助けると思ってさあ」
縋りつかれるように両腕を掴まれて思わず眉を寄せた。暑苦しい。一体冷静さはどこに行ったのか。「そうは言ってもな」と答えた俺に、Aは顔をあげる。普段じゃ他人に弱みを見せないようにと努めているこの男は、俺にだけは醜態を見せる。
「なんで！！」
「女性の方が適役だろ」
「無理じゃん！？わかってんじゃん！？」
「そんなことないだろ。お前が誠心誠意普段の調子で頼めば、断る奴なんていないんじゃないか」
「良く考えて！普段の調子の俺を思い出して！俺が女の子と喋れると思う！？」
「いや？」
「ほら！その時点で無理じゃん！」
俺にしがみついて暴れるせいで被っていた帽子が脱げてしまっている。なりふり構わなすぎるだろ。彼はほとんどの人間の前ではこの本性を隠している。
ミステリアスさを前面に押し出すことでキャラ作りをしようとしているわけではない、というのが酒が入った時に漏らす彼の言い分ではあるが、俺はそれを常に話半分に聞いている。
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作者名：やなぎ | 作成日時：2024年1月21日 12時
