△ ページ2
「はぁい」鈴を転がしたような声が聞こえる。僕だよと零せば、「開いてるよ」との返答。少しの間を置いて僕はノブを捻った。
一面その部屋は白色だった。窓もない。その部屋が異常だということはどんな人間の目から見ても歴然だろう。唯一家具と呼べるのはベッドくらいのものだ。そのベッドですら白色で、もはや眩暈すら覚える。
その上に座る少女は、ただその口に笑みを蓄えていた。髪の毛は雪のように白く美しい。深く閉じた瞼にかかる長い睫も愛おしく感じてしまう。そんな彼女の処女雪……いや、死人のような白い肌には、痛々しくもおびただしい量の管が刺さっていた。けれど彼女はそれが当たり前。
僕が近づいてくるのが分かると、堪えきれんばかりの笑みを浮かべていた。そして間もなく手足をばたつかせる。
「雪花、今日も来てくれた！」
雪花。それが僕の名前だ。彼女がつけてくれた、大切な大切な名前だ。いつものことなのに、いつものことだというのにあの鈴のような愛くるしい声で呼ばれるとたまらなく嬉しくなる。馬鹿みたいだけど。
「いつも来てるじゃないか。こら、そんなにはしゃがないの。管が取れちゃうよ」
僕がそう言うと彼女はしんと黙り込んだ。前回、管が外れたとき付け直してもらったことがあったのだけど、よほど痛かったらしく、ひどく泣いていた。こんな脅しで、大人しくなるなんて子供みたいだと僕は溜まらず苦笑いを浮かべた。
ベッドの隣に置かれているパイプ椅子に僕は腰をかけた。さて、どうしたものかと僕は考える。どうにかして、世界がなくなってしまうということを彼女に伝えなければならない。
世界がなくなってしまう、そういったら彼女はなんていうのだろう、どんな表情をするのだろう。冗談だと笑い飛ばすだろうか、ふざけないでと怒るだろうか……悲しむだろうか。それは嫌だなと僕は考える。
彼女が悲しい表情をすると胸がぎゅっと痛くなるのだ。まるで鎖にしばりつけられるかのような、そんな冷たくて鈍い痛み。ああ、考えるだけでも痛くなる。「あのね」
それでも言うべきだと思った。僕は必死に言葉を振り絞る。そんな僕の異変に気付いたのか、彼女は僕のほうを向いて首をかしげた。
「あのね」
また声を振り絞る。
ああ、お願いだから悲しい顔だけはしないでほしい。僕まで一緒に泣いてしまいそうになるから。彼女は小さくうんと頷いた。
「あと七日で世界が終わっちゃうって」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 12人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
自由気ままに生きる難聴の音霧想(プロフ) - 少女Ｒさん» コメントありがとうございます！ 時間をもう少しかけて仕上げたかったなぁ……と今更ながら思います。そう思っていただけたなら大変光栄です。 (2017年5月14日 13時) (
レス) id: 6c125bcd13 (このIDを非表示/違反報告)
少女Ｒ(プロフ) - 完結おめでとうございます。凄く面白かったです！少ない話数なのにとても感動しました！ (2017年5月14日 9時) (レス) id: ff2027e67d (このIDを非表示/違反報告)
音霧想@悪魔崇拝してる人（会話はできます）(プロフ) - うさぎ@りんご飴さん» わぁ……改行少ない小説苦手だというのに目を通していただきありがとうございます。いえいえ、感想いただけただけで満足です。本当にありがとうございました。 (2017年1月8日 14時) (レス) id: 6c125bcd13 (このIDを非表示/違反報告)
うさぎ@りんご飴(プロフ) - 音霧想@悪魔崇拝してる人（会話はできます）さん» いえ、あれは個人的な意見ですのでお気になさらず！ 私は改行が少ない作品が苦手なのですが、全く気にならずに読む事が出来ました。その点を強調して書きたかったのですが、上手く伝えられず申し訳ありません(汗) お忙しい中、わざわざ返信頂きありがとうございます！ (2017年1月8日 14時) (レス) id: 358807b83b (このIDを非表示/違反報告)
音霧想@悪魔崇拝してる人（会話はできます）(プロフ) - うさぎ@りんご飴さん» 評価ありがとうございました。私は改行が多い作品は横読みでも縦読みでも苦手なんです。内容が薄くなってしまう気がするんですね。なので改行に関してはこのままでいかしてもらいます。ほかの点は褒めていただき光栄でした。ありがとうございます。 (2017年1月8日 14時) (レス) id: 7d8ba4b3f5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
