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菊乃「ごめんA、お待たせっ」
ドキドキしたまま、呆然としていたら
お手洗いから菊ちゃんが戻ってきた
「おかえり〜」
気持ちはまだ混乱していて
整理がつかないままの感情を振り払おうとして
精一杯の明るい声を出す
菊乃「…どうした？なんかあった？」
なのに、
菊ちゃんにはお見通しみたい
「えっとね…、下駄の鼻緒がとれちゃいそうで・・・」
菊乃「えーっ、ほんとだ！歩きづらいねこれは」
足元を見ると
さっき下駄をはかせてくれたセンパイの指の感触が
まだ残ってるみたいに思い出して
胸がざわざわする
気をゆるめたら
かすれた声が、すぐ近くに聞こえてきそうで
いつもと違う髪型で
いつもと違う表情で
でも、いつも通りのバニラのにおい
歩くたびに
ひとつひとつを思い出す
菊乃「ゆっくり歩こ…鼻緒ちぎれちゃったらやばいもんね」
「うん、ありがとう」
…ほんとは走り出したい
走って、走って、
センパイに対する
このモヤモヤした気持ちを振り払っちゃいたい、と思う
だってこれじゃまるで
・・・センパイのことを好きみたい
だけど、そんなのおかしい
ほとんど知らないし
相手は好きになってはいけない人
センパイには先生がいて
わたしには海人くんがいる
…おかしいおかしい
ちぎれる寸前までになってしまった鼻緒
下駄を引きずるようにして歩きながら
芽生えかけたこの初心な気持ちは
神社のすみっこに隠してしまえば
きっときっと
夏の夜に溶けてなくなるから
この気持ちはなかったことにして
元いた場所に戻ろうって思った
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作者名：エリ
| 作成日時：2022年6月23日 0時
