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紫耀「んじゃ、俺そろそろ行くわ」
立ち上がったセンパイが
浴衣の裾についた砂をぱんぱん、って振り払うと
厚い胸板の上で
ネックレスがゆらゆら揺れた
「せ、先生と来てるんですか…・・・」
普通にしゃべったつもりが
消え入るような声になってしまう
紫耀「来るわけないでしょ(笑)」
ちょっと照れくさそうに
センパイが目をそらしてから控えめに笑った
今日のセンパイはなんだか、
色んな表情をするみたい
わたしが知ってるセンパイと
知らないセンパイ
紫耀「子供なんだから、そーゆー心配しなくていーの」
「…ご、ごめんなさい・・・」
知らないセンパイを知るたびに
…心が、揺れる
紫耀「でも秘密にしててくれてありがと」
『じゃーね』って言いながら
わたしの頭を
ぽんぽん、ってしたセンパイ
大きな手で包み込むみたいに
ゆっくりで、やわらかいその動作には
優しさがあふれていて
びっくりして
その場に立ちすくんでしまう
呆然としているわたしを横切ったセンパイは
人混みに消えていったけど
バニラとせっけんの残り香が
夏の匂いと混ざって
まだ…センパイがここにいるみたいな気がして
こころが
ぎゅー、ぎゅー、ぎゅーっ…って
くるしい
わたしが知ってるセンパイと
知らないセンパイ
知らないセンパイのほうがたくさんなのに
センパイのこと・・・ほとんど知らないのに
こんなに感情が揺れ動くのはなぜだろう
ドキドキして、それでいて泣きそうなくらい胸が締め付けられるのも
おかしいって分かってる
それでもこれは
・・・緊張とか動揺のたぐいの気持ちじゃないって
分かってしまうのは
ふらーっと現れてわたしの心をかき乱した
センパイの、夏の魔法
…だったり・・・するのかな
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作者名：エリ
| 作成日時：2022年6月23日 0時
