八話.提案 ページ10
そして、母は続ける。
サン「えー…Aの父と兄は務めに出ておりまして…今日は来れんのですが…」
弥太郎「いえいえ、こちらこそ、急で申し訳なかったですわ。辰眞がどうしても北條さんのお嬢さんを嫁に、と。」
サン「はあ…ほうですか。
それで、辰眞さん、ご年齢は…」
母に質問され、辰眞さんは淡々と質問に答え始める。
ありゃ、緊張していたのは、最初だけか。
辰眞「Aさんと同級です。二十です。」
サン「職業は…」
辰眞「呉海軍工廠に務めとります。造機部で働かせてもろうとります。」
造機部。
軍事機の設計やらをしているんだろうか。
サン「ほうですか。うちの人も第11航空廠に務めとります。因みにこの子の兄は」『うひゃあっ』
母は私の頭に、突然ポンッと手を置いた。
私は突然の事で声を上げてしまう。
サン「…軍法会議の録事をやらせて
『…すみません。』
私の失態を恥ずかしく思ったのか、母の声は文末に行く頃には随分と小さく
径子「呉海軍工廠いうたら、二河公園近くに工廠員の寮があるでしょう。
そちらにお入りで？」
母に代わって姉が質問を始める。
辰眞さんが姉の顔を見て答え始めたため、私は再び辰眞さんの顔を見た。
どうも目が合うことを避けてしまう。
辰眞「いえ…家から近いけえ、寮に入る必要は無い思うて。今は家から通わせてもろうとります。」
径子「何人家族なんですか」
辰眞「六人です。いえ…でした。」
その時。
今まで母や姉の質問責めに合って
いても決して嫌な顔一つせず淡々と答えていた辰眞さんの表情が、初めて曇った。
辰眞さんのお父さんが続ける。
弥太郎「兄、姉、辰眞、弟でしたが、
兄は陸軍としてニューギニアに出征して、戻らんのです。恐らくはもう…」
径子「ほうですか…陸軍に…」
『…』
辰眞「…」
サン「…」
元々初対面も同然の人間同士の
ぎこちなかった縁談が、
余計にぎこちなくなってしまった。
会話が途切れ、沈黙が流れた。
延々と続きそうな沈黙だったが、やはりそうも行かず。
半ば強引に母の提案によってその時間は終了した。
その提案は
サン「ほ、ほうじゃ。折角じゃ。
二人で街でも行ったらええよ。」
というものだった。
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なー(プロフ) - 初めて読ませていただきました。心温まるお話、続きが気になります！ (12月14日 16時) (
レス) @page27 id: 5a5cf333fe (このIDを非表示/違反報告)
さとみ - はじめまして。楽しみに読ませてもらってます。完結したお話しでも再開するのでしょうか？またお話し読めるのを楽しみにしてます。 (2022年9月30日 14時) (レス) id: 1dc70ba9d0 (このIDを非表示/違反報告)
にゃんこ(プロフ) - 最近すごく『この世界の片隅に』にハマっていたんですよ、、ストーリーもキャラクター同士の関係も最高です…更新楽しみにしていますね (2020年7月12日 23時) (レス) id: bc0dbb2048 (このIDを非表示/違反報告)
もえこ(プロフ) - お話が動き始めて本当に嬉しいです！ありがとうございます！これからも頑張ってください！ (2020年3月26日 17時) (レス) id: 8b605c37d7 (このIDを非表示/違反報告)
Reika(プロフ) - おかえりなさい^ ^作者さんのペースで更新頑張ってください！読みに行きますね。 (2020年3月15日 23時) (レス) id: 616ea4ec17 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杏 | 作成日時：2018年7月22日 11時
