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《ーー…さ…よ》
何故か、あの時の記憶が鮮明に脳裏に過った。
さよなら、殺生丸
ほとんど息吹にも似た…あの女の声だ。
ザッ…
《…A、…………死んだのか?》
妖怪に喰われたのか血肉はただれ、その表情は穏やかなのに青白い。それに
《…父上》
目から零れ落ちたと見える涙のあとに声が震えた。
サクッ…
「………。」
晴明の邸宅を出てしばらくすると霧から抜け出し、夜の森に出た。
スゥウ…
「……やっと…」
戻った
木々の間から見える星がいつもより一際目立って見える。いままで微妙に朧んで見えなかったものが鮮明に見えるようになった気がした。
「(あの日ーーー…、)」
死の眠りにつく間際、闘牙も陰陽師達の反撃で少なからず負傷していた。術士の傷ほど厄介なものはない。
「(竜骨精ごときで死傷なんてするはずあらへんかったんや…。冥加に対する違和感は…私への気遣いからの虚言….。)」
森が深まり、影が落ちる。本当、妖怪といえど酷な事をした。それに
ザッ…
「……遠鷄…」
まさか自分の記憶を残す為に遠鷄が人柱になり、晴明が禁術に手を出すはめになるだなんて思いもしなかった。
《A、殺から離れたらあかんで。》
晴明の思念が最後に告げた言葉を思い出す。
《あの玉の欠片は時代を越えてまで君を追いかけてしもた…。玉との絆は簡単に切れるもんやあらへんと言うことや…。》
《……。》
《いまは清められてるけど、持っている欠片に少しでも穢れが出たその時…玉は再び君に刃をむくやろう。欠片は持たん方がいい。そして…君の魂を揺さぶられるな。》
「……欠片が汚れたら…か。」
四魂の欠片が入った巾着袋を掌で転がす。微かに光る欠片の光は澄んでいてとても清らかだ。
「(欠片がないと時代を渡れないだろうし…)」
悩ましいな、と森を進んでいくと開けたところに抜け出した。そこに
「…殺生丸?」
「………。」
木に背中を預けた殺生丸が現れた。私の気配に気づいて見下ろす殺生丸が微弱に眉を逆立てて歩み寄る。
「…安倍晴明…、あの小賢しい狐の臭いがする。」
「ああ…。もう逝ったよ。」
そう言えば殺生丸は少し眉を寄せて空を見上げた。何を感じているのかは、この時ばかりは分からない。
「(お前はーーーー…)」
あの時、私の死に顔を見て何を思った?
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ゆうみん - 犬夜叉もなぜ、彼女ちゃんが気になる。もしかして好きなのかな、次回楽しみです (2022年1月9日 10時) (レス) @page32 id: ef5d083eda (このIDを非表示/違反報告)
natto710(プロフ) - pa_m_083さん» ありがとうございます!ほんのちょっと更新しました!もし良ければお読み下さい! (2021年8月24日 8時) (レス) id: 10dd1f82d2 (このIDを非表示/違反報告)
natto710(プロフ) - むつきさん» 遅くなってすみません(;▽;) (2021年8月24日 8時) (レス) id: 10dd1f82d2 (このIDを非表示/違反報告)
pa_m_083(プロフ) - とっても面白かったです。更新待ってます (2021年7月12日 0時) (レス) id: b7f8e21940 (このIDを非表示/違反報告)
natto710(プロフ) - 瑠李さん» すみません!書いて消したりしてたので、29話が30話になってました(;_;) ご指摘ありがとうございます! (2021年5月3日 12時) (レス) id: 0b5fbc3faf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:natto710 | 作成日時:2020年5月30日 18時