極小説。＜読み切り＞ (ページ3)

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楽譜とファイル　(2019/2/13）ページ3

「はーい！合唱練習するよー！」
　学級委員の春基君の呼びかけに、私たちは足を引きずって机の間に並んだ。
　
　この時期ずっと合唱練習だよ。疲れる～。
　中学校生活の集大成だし、頑張ろうとは、思ってたけど。

　楽譜を取りに行こうとロッカーに戻ろうとして、誰かにぶつかった。
　高橋さんだ。気付かなかった。地味すぎて消えそうな雰囲気がある。
「あの、わたし、いるよ…。」
「いや、それはわかってるから…。」
　本当、苦手。そういえば高橋さんは、中一の時、こう言ってた。

　みんなで小学校の嫌な思い出を話していた。
「私、黒歴史ありすぎてさ～。あ、高橋さんは？」
比較的フレンドリーな、誰かが言った。
「わたしは、ないかな。黒歴史って、隠したい過去のことでしょう。わたしは見るからに、小学校６年間ずっといじめられてきたって感じだもの。」
　その途端、周りの空気が凍り付いた。

　春基君が私に声を掛けてきた。
「どうしたの？あっ、楽譜か。」
「うん、そうなの。ちょっと遅れるね。あはは、ゴメン。」
ちょっと謝罪してから、春基君が高橋さんと幼稚園からの仲だったことを思い出して、耳打ちした。
「こんなくらい幼馴染、大変じゃない？春基君、すごく人気者なのに。」
春基君は、戸惑ったように遠くに目を向けた。目線には、高橋さんの、いじめっ子から暴言ばかりが書かれたファイルがあった。あの中には、春基から離れろ！みたいなものもあったかも。遠くて見えないけど。

…うーん、やっぱりかかわるのも危険だし、なにより本人の性格が悪いと思う。

「あのね、性格が変だからいじめられるんじゃないんだ。いじめられるから性格が変になっていくんだ。疑心暗鬼になるんだ。いじめを正当化するな、人の事情も考えずに。できれば、いやお願いだから、僕はみんなにこうしてほしいんだ。いじめて従えてその人のことを知るのをやめて、真っ直ぐに話しかけてその人の口から出る言葉を聞くんだ。今するならあまりにも遅すぎるけど、今すぐしなければ遅いから。」