鬼の血脈 (ページ33)

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弐拾陸話　傷痕　後半ページ33

「禮刃殿は彼女を護るために亡くなられた。紅血鬼の家は先祖返りを忌み嫌っていた。当時、一部を除いて家全体が先祖返りを殺そうと考えていたんだ。それに反対したのは、母君の禮刃殿と当主であった曾祖母の翠波殿(あきは)、曾祖父の和雅也殿(かがや)だけだったそうだ。父君の剣斗殿(けんと)は婿養子だったこともあって先祖返りが恐ろしかったようだった。実の娘を殺すことを強く支持していたらしい」

実の父親が娘を殺すことを強く支持していただと？馬鹿な!血の繋がった娘を殺したかったのかよ!?

「殺されそうになって彼女が変化したことは言うまでもない。暴走した彼女はその場にいた者を皆殺しにした。彼女を止めようとした母君もその手にかけた。」

そんな…そんなことって、あるのかよ。

「血を啜り、肉を裂き、全てを壊す。それが彼女だ。変化した紅血鬼は手が着けられない」

母親さえも殺してしまったのか。回りにあるもの全てを壊して、それでもとめられない。

「一番傷付いてるのは彼女自身だ」

漓々蝶は、その場に居たかのように話した。
だが、居るわけはない。

血まみれな部屋。先まで人だった残骸。
一人佇む少女。返り血に染まった顔。
紅く見開かれた瞳にはこぼれ落ちる雫。

全てが鮮明に伝わる。

「…」

言葉になんかならなかった。
そんなもの、何の役にも立たない。

こんなにも重い過去をあいつは独りで背負ってきたのか。あの小さな背中に全てを背負って、それでも笑って。自分が傷付くことを承知で俺を助けて。

「……なんでだよ」