鬼の血脈 (ページ32)

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弐拾陸話　傷痕　前半ページ32

「僕の知りうる限り、彼女は過去に三度暴走している。その被害者は僕と青鬼院蜻蛉と彼女の母君、紅鬼院禮刃(あやは)だ」

漓々蝶はいつも通りの声色で話し出した。
それは逆に哀しみを押さえつけようとしているように俺の瞳には映った。

「瀕死の状態に陥ったと言っていたのは僕のことだ。彼女が十の時、僕は九つの時だった。あれは僕に対しての嫌がらせがばれた時だった。僕の痣に紅鬼院が気付いてしまってな。怒った彼女が無意識に変化してその嫌がらせをした相手に制裁を下した。向こうは壁に激突して気絶しただけですんだんだが、彼女はそのあとも正気に戻らなかった。」

漓々蝶の表情は少し影って見えた。そのあとはだいたい想像がつく。

「暴走した彼女が僕を突き飛ばして、僕は階段から落ちた。その時に階段の角でいろんなところを切ってな。出血多量で危うく死ぬところだった」

物悲しそうに語る漓々蝶はとてつもなく脆そうに見える。

「青鬼院の時は彼女が七つの時だ。詳しいことは知らないが、彼女が吸血行動をしたのは青鬼院が初めてだ。」

蜻蛉は今、水無に付き添っているためこの場にはいない……らしい。
そこで言葉を切り漓々蝶は覚悟を決めたような顔をして最後の話をする。

「母君、禮刃殿の時は……」

だがそこで言葉は出なかった。漓々蝶の思い詰めた顔はその事件がどれ程凄惨なものだったのかを物語っていた。