第32話 素直な桜木君 ページ32
しばらくその場に立ち尽くしていると、後ろから誰かに声を掛けられた。
「大丈夫か？」
とても逞しいこの重低音ボイスは…
「赤木先輩…！」
うちの部活のキャプテンだった。
身長が2m近くもある彼の迫力には、マネージャー2年目の今でも時々圧倒されてしまう。
「真っ青な顔してどうした。」
先輩は心配そうに私の顔を覗き込む。
私は震える声をなんとかごまかしながら、先ほど起こった出来事をかなり手短に話した。
「なんかいきなり桜木君に睨まれて、びっくりしただけなんです…！」
我ながら不親切な説明だなとは思ったが、気が動転していたためこれが精一杯だった。
ところが、それだけで先輩には何もかもが伝わったみたいで。
「全くアイツは…」
と低く呟きながら頭を抱えている。
彼の呆れ顔は、今年度になってから本当によくお目にかかれるようになった。
誰のおかげとは言わんけれども。
「すまん。実は半分俺の責任でもあるんだ…。」
先輩は申し訳なさげにそう切り出して、事情を説明してくれた。
どうやら桜木君は、2試合連続で即退場になってしまったことを相当落ち込んでいるらしく、それから練習後に赤木キャプテンの自宅へ何度も押しかけたという。
退場しないためのアドバイスが欲しい、と…。
とはいえ強いディフェンスには常にファールのリスクがついてくる。
これは仕方のないことで。
だからこそ経験を積み重ね、そのギリギリの境目を感覚的に掴まなくてはならない。
アドバイスをするとすれば、地道に経験を積めとしか言いようがないのだ。
しかしそれでも何か近道があるハズだと、桜木君は諦めずに粘ったそう。
そこで頭を悩ませたキャプテンは、半分口から出まかせのつもりで ”相手を目でコロせ” と助言したのだった。
それをしっかりと素直に受け取った桜木君は、“ 目でコロス “ 練習として、道ゆく人々を片っ端から睨みつけていたのだろう。
そう赤木キャプテンは推測していた。
なるほど、そういうことか。
地道に積み重ねるよりも、すぐ手に届きそうな近い目標がすぐそこにあった方が、より頑張れるという気持ちも確かに分かる。
むしろそれで溢れんばかりのやる気を出しまくる桜木君が、なんだか可愛くも思える。
「そうだったんですね…。」
「ああ、本当にすまなかった。」
「いえ、面白いので大丈夫です。」
赤木先輩の安心感のおかげか、いつの間にか私はすっかり歩けるようになっていた。
続く (更新停止中)
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わた丸(プロフ) - メガネさん» そう言って頂けて大変嬉しいです。不定期で申し訳ありませんが、完結まで更新頑張ります！ (2023年2月27日 16時) (
レス) id: 889abdf4ce (このIDを非表示/違反報告)
メガネ - 夢中になって読みました。ありがとうございます。続きが気になりすぎる (2023年2月27日 1時) (レス) @page30 id: 434307a1aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：わた丸 | 作成日時：2023年2月5日 14時
