Spica【菅田将暉】 (ページ5)

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「おはようございます」

女性が働く実家の店では、開店時間に合わせ既にバックヤードがバタバタしていた。

気にせず歩き続け、自身のロッカーを開ける。

「おはよう、翠」

「おはようございます」

女性に声を掛けたのは男性店員だ。

数年前からこの店で働き始め、女性とは仲が良い。

ロッカーからエプロンを取り出す女性に、店員はユラユラと体を揺らしながら声をかける。

「なんかさ、噂で聞いたんだけど」

「着替えまで見るつもりですか」

「着替えって、エプロン着るだけでしょ」

それだけ会話すると女性は諦め、店員は満足そうに再び話を続けた。

「噂で聞いたんだけど、明日長野県になんかのドラマの撮影が来るんだって」

女性の体がビクッと反応し、動きも止まる。

しかし、それはほんの少しの時間ですぐに動き始めた。

「……そうですか。
長野に来るなんて、凄いですね。
…なんの撮影か知りませんが」

長野県に何かの撮影が来る事は珍しくない。

主に自然のシーンなんかで使われる事が多く、また、バラエティ番組等でも芸能人が来る事が多い。

「…さて、仕事しますか」

女性の準備が整った事を確認し、店員が手を叩く。

女性は店内に向かって歩き出す。

足を引きずりながら。

今日もいつもと変わらない一日が始まる…。