静かな部屋で【3年A組】 (ページ4)

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「東雲っ…！！」

ちょっとした検査等が終わり、一息ついた所で新たな人間が病室に現れた。

丸いメガネをした、優しそうな男だった。

「良かった………お前だけでもっ……」

………私”だけでも”？

気になったけれど、敢えて口にはしない。

そんな事を考えるよりも先に、私はこの男が誰なのかを知らなくてはいけないから。

「………あの…本当に申し訳無いんですが…」

男はしばらくキョトン、としてから「あぁ」と声を出した。

「………記憶、無いんだってな」

話が早くて助かる。

「……何も、わからないんです。
貴方は…いったい…」

「俺は、柊一颯。
お前………東雲有栖の通う学校の先生だよ」

先生、という単語よりも先に、有栖という自分の名前に驚いた。

だって、それは先程聞いた名前だったから。

「………アリス…」

澪奈ちゃんは、私の名前を知っていたのだろうか。

だったらなんで、教えてくれなかったんだよ。

「東雲は、魁皇高校の3年A組の生徒だ。
俺は美術教師で、お前は美術部の部長」

先程と同じように、まるで他人事みたいに感じた。

さっきから私の事だという自覚が全く持てない。

根拠となる記憶があれば良かったのに、何も無い状況では何もかもが自分じゃないみたいだった。