文学少女の手記【3年A組】 (ページ10)

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文学少女と逢沢君ページ10

「酒井優詩ちゃん……だよね」

朝のホームルームが始まるすこし前、同じクラスの逢沢君がおずおずと少女に話しかけた。

あまり接点はない人物だ。

少女の認識としては、常にカメラを持っているようなイメージでしかなかった。

「そう……ですけど」

訝しげに少女は頷く。

半年ほど同じクラスに居るのに、今更名前を確認されるなんて思わなかった。

「小説を書いてるって……本当？」

「あ……うん」

逢沢君は安心したように微笑んだ。

少女はその意図が読めずに首を傾げる。

「もし良ければ、君の書いた話で映画を作りたいんだ」

「映画……」

魅力的な話ではあった。

自分が書いた話が映像になるその光景を、少女は想像した。

けれど、どの話を映像にしようか。

少女が思いつく自分の作品は暗い話ばかりだった。
最近書いている話だって、例の自殺する女の子の話だ。

逢沢君の持つ技術がどのようなものかまではわからないが、さすがに自殺する女の子を撮影する訳にはいかない。

「映画向きの話は書いてません。
とても魅力的なお誘いだとは思う……だから」

少女は微笑んで言った。

「お話を基礎から一緒に考えたい、です」

逢沢君は驚いたように目を見開いて、それから嬉しそうに笑った。

「いいね。楽しそうだ」

ちょっとしたプロジェクトが出来そうだ。