日常からの刺客【獣】【条野採菊】

第五十七話｢あなたのいつくしみ｣ ページ10

それから俺は、流れる暖かな微笑ましい記憶をゆっくりと追っていく。

料理は化学みたいで面白いと言う君。
いつもの丸眼鏡をかけているのに丸眼鏡を探す君。
大雨で少し肌寒い時に一緒に昼寝しようと誘う君。
一緒にお風呂に入りながらアイスを食べようと誘う君。
頑張って書いた駄作を面白いと感想を言ってくれる君。
分からない問題を面白く教える君。
　…結局問題は分からないままだったが。

　場面は変わり、最初に見た向日葵畑に戻る。二人は向かい合って、ハグをしていた。■■■■の左手の薬指には俺が頑張ってバイトをして貯めた金で買った婚約指輪がはめられていた。

　次の場面に進もうとした瞬間、急に頭痛がし始めた。パチパチと花火の様なものが広がる。
　｢この先に進むのか？｣
　正面を見ると、向日葵畑の中抱き合う二人が俺を鋭く睨んでいた。だが■■■■は自分に対して憎悪の感情を抱いている訳では無さそうだった。
　｢…進まなければ、駄目な気がする。｣
　｢…そうか。俺が言うならそうだな。｣
　次の瞬間、足元に大きな穴が開き、そこから大量の赤黒い女の腕が何本も伸び、俺の体を引きずり下ろす。

　行き着いた先は教会だった。
　聖母マリア象が俺を優しく冷たい目で見下す。

　｢Oh! combien est grande ta bonté, Que tu tiens en réserve pour ceux qui te craignent, Que tu témoignes à ceux qui cherchent en toi leur refuge, A la vue des fils de l'homme!｣

　神秘的な歌声の賛美歌312番が流れる中、前方からグチュリ、グチュリ…と生々しい嫌な音が不穏に響く。俺はその音を覚えているなのか、目を瞑り、次第に鳥肌が立ち過呼吸になる。
　｢■■■■！！｣
　後ろから、バタンと大きく扉を開ける音と共に、彼女の名前を叫ぶ声が聞こえた。
　｢あ、あぁ。来てくれたんですね。｣
　嫌な生々しい音が止まり、その代わり嫌悪感が湧き出る声が聞こえてきた。
　｢お前は…マネージャー…？なん、なんで！？なんでこんな事をする！？｣
　瞼を恐る恐る開く。其処に居たのは血で染ったウェディングドレスを着たかつて部活で世話になったマネージャーと、頭と左胸から大量の血を流し、現在進行形で腹を抉られている、マネージャーよりも真っ赤に血で染ったドレスを着た、

　｢うっ…うわぁぁぁあァァアァアァアアアｯｯ！！！｣

　ソフィーだった。

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