Happy Villains Story!!【短編集】 (ページ25)

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Mr.ダルメシア《歩幅》ページ25

犬の姿の時は、前足と後ろ足を地面につけてマスターの後ろを歩いていた。

『どうかしましたか？』
｢ん、いや何でもないよ？｣

朝靄(もや)が静寂している街を包む。日が昇りかけているためか少し明るい。冷たい風がAの赤い頬を撫でるように優しく吹く。暖かそうな素材のパジャマの上からコートを羽織って、寝起きのためかゆっくり歩く彼女の歩幅に合わせてレンガを踏む。今は、今だけは人間の姿になって二足歩行が出来ている。こうしてAと隣並んで歩けるのも今だけ。少し寂しく思えて、この4年間が楽しかったのだと分かる。親友と呼べるエンターテイナーのヴィランにも、ベタベタとくっついて勝手に｢ダーリン｣と呼ぶ獣のアイツだって……

『……寒いですね』
｢まだ太陽が出ていないからじゃないか？｣
『それもありますが……冬になるって合図ですね』

口から出てくる白い息は、風に乗って彼女の頬を触ってから消える。少し寂しそうに俯いたAに声をかけようか迷っていると、Aが僕を見上げるようにして言った。

『合わせなくていいですよ、歩幅』
｢……え？｣
『今年こそ、同じ場所に行くんです……皆さんと一緒に、憧れたヴィランズの世界へ』
｢……Aなら出来るんじゃない？｣
『そうですか？ありがとうございます』

頑張りますね！と意気込む彼女がいきなり走り出した。それを本能的に追いかけて遊んでから、ホテルに戻った。

君ならできる、だって───────……

君は人間じゃあないだろ?