星の雨２

３ ページ19

そう言うたら、

晶馬、キッチンから出てきた。


いつの間にか、俺のエプロン付けてる。


「なんでそんな他人行儀なこと言うの？
昔は、崇ちゃんが、
インフルかかった僕のこと看病してくれたよね」


「そんなこともあったなあ」


自衛官時代のことは、遠い昔のことのように感じる。


「そのお返し」


「ありがとうな。
けど、もう、ほんまに帰った方がええよ。
うつってもうたら、」


「そしたら、崇ちゃんが看病してよ」


「責任感じるけど、そういうわけには、」


「どうして僕じゃダメなの？」


「え？」


「崇ちゃんが自衛官やめたって聞いて驚いた。
天職だと思ってたし、
僕にとっては、
自衛官の崇ちゃんは、
スーパーヒーローだった」


「ごめんなあ。
けど、俺、そんなええもんちゃうから。
今や、しがない現場マネやし」


「そんなに、あの人が好き？」


「え？」


「小瀧望」


唇も拳も、ぎゅっと結んで、
そやけど、真っ直ぐ、俺を見つめてる。


泣く前の晶馬の癖は変わってへん。


「晶馬？」


「あの人を見つけたから。
崇ちゃんは自衛官をやめちゃった」


「なんで・・・」


「ごめん。
崇ちゃん、病気なのに。
こんな話。
僕は、昔と何にも変わってないよ。
今も変わらず、崇ちゃんが好き。
僕のとこに戻ってきて」


晶馬が呟いた時、
インターフォンが鳴って、
玄関のドアがガチャガチャ言い出した。


合鍵持ってんのは、望だけや。


「晶馬、ごめん。離れて」


「やだ。
あの人のとこに行かないで。
あの人は、別の人が好きなんでしょ？」


晶馬の言う通りやねん。


俺がどれだけ想っても、

望はもう、流星のもの。


ほんまもんのスーパースターに、
俺なんかが叶うわけもない。


体から力が抜けてく。


扉が開いて、
望がこっちに近寄ってくる気配がする。


「濱ちゃん？大丈夫？
淳太社長に聞いてん。
インフルなんやって？
俺、お見舞いのもの色々持って来てん。
これでもリハ終わり、飛んできてんで」


リビングの扉が開く。


これでええんや。


かえって諦めがつく。


背中に、ドサッと、何か落ちる音が聞こえた。

４→←２

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す