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ある日の放課後、教室でデッサンしていた。
美術室は騒がしくて、早々に抜け出した。
ん、と伸びをして辺りを見回す。
ふと、目の前に見覚えのある弁当袋が目に映った。夕のだ。中学のときから使ってたから少し色あせている。家に届けるか。いや、まだ部活で帰っていないだろう。本人に渡した方がすれ違いが起きずに済むだろう。
画材は……まぁいいか、置いていこう。カメラと弁当袋だけ持って教室を出る。
カメラは必需品。キレイな景色とか街並みとか、絵のネタになるものはとにかく撮っている。……その中で本当に絵にしたのは少ないが。
体育館の外からもボールの跳ねる音が聞こえる。キュ、キュ、とシューズの音も反響している。
あぁ……怖いなぁ、運動部とはほとんど関わりがないから……。重い足取りで体育館を覗く。
トン、とか、ふわっ、とか、そんな擬音が近いのかもしれない。
強烈な音で飛んで行ったボールが軽やかに上がる。
夕だ。
腰を下ろし、腕を伸ばす彼の姿にドキリとした。
彼の出場する試合には何度か行ったことがある。それに、幼い頃はよくバレーに付き合わされていたから夕がレシーブをしているところは特別珍しくもないが、こうして近くで見るのは久々であった。
普段と違い、静かな姿に毎度驚かされる。
ボールを見据える彼の瞳は本気で、その度に悔しくなる。
「おいそこ!!!誰だ!」
突然怒号が響き渡って肩が跳ねた。危うく弁当箱を落としそうになったが、慌てて抱える。
顔を少し覗かせていただけなのにあんな大声で怒鳴らなくていいのに、!
やっぱり届けるのはやめておこう。すぐに荷物をまとめて夕の家に直接届けよう…。
「大丈夫?」
そのとき、透き通った声が聞こえた。綺麗な黒髪、泣きぼくろが特徴の女性。とっても美人、思わず見惚れてしまいそうに…。
『あ、ぇと、これ夕……西谷にとどけてほしくて…。』
弁当箱を差し出すと彼女はぱちくりと瞬きした。そのあと分かった、と弁当箱を受け取った。
『……それと…その、邪魔して、すみませんでした。』
「ううん、大丈夫。監督、厳しい方だから気にしなくていいよ。」
優しく微笑む彼女にメンタルがリセットされる。教室に戻るまで、彼女のことを考えていた。
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な(プロフ) - ♡ (2022年12月25日 20時) (レス) @page2 id: 6abbd94f19 (このIDを非表示/違反報告)
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