コイバナ【短編集】

おとうと ページ36

彼はいつもふわふわしてる。


話しかけても返事がないなんてしょっちゅうなのにたまにクラスメイトと喧嘩してたりする。


意外と気性が荒くて、言葉遣いが雑。


でも、女の子には優しくて、授業も真面目に受ける。



彼はきっと違う世界に生きてるんだろうな。


そう私が思い始めたのはかれこれ4年間の付き合いになったときだった。


ほどよい、そんなに思い切りではないけど付き合いの長い私達は、


幼馴染と言っても過言ではない。と思っている。



でもそんな彼が毎年変わらないのをみると、安心するというか、


1人だけ時の流れから外れてるように見える。


背丈ばかり伸びて、中身は何も変わらない。



そんな彼のだから私は気づいたら、ほっておけない弟みたいな。

そんな存在になっていた。



ところが、数年見ないうちに彼は、立派な“男の人”になっていて。


どこか涼しげな目元とか、昔よりしっかりした受け答えとか。


私の知ってる、思ってた弟はいないんだなって思ったのと同時に、寂しく感じた



「A、まって。」


話しかけられないまま会は終わり、少し悲しく思いながら帰ることにした。


だって、話しかけられることがないから。


話すことが、ないから。


後ろを向いて振り返らない、歩き去ろうと思った時だった。


「まってってば」



くいっと袖を引かれて振り向くと、


そこには例の彼がいた。



「やっと、今日目があった」


彼はそれはそれは嬉しそうに笑った。


それはあどけない少年の笑みで。あの頃の笑みで。



「なんで泣いてるのっ…！？俺なんかしちゃった…！？」



気づけば頰を流れる水は、なにを意味していたのだろうか。


そのうちやっぱり変わってしまうと思っていた彼が変わっていなくて、安心したのかな。



「なんでもない。どうしたの…？」


目尻を拭いながら問いかける。



「連絡先、交換しようぜ。」


そういえば持ってなかったっけ。なんて。


ボケーっとする頭で考える。


「いいよ」



それだけ？と思いつつ連絡先を交換して帰った。


彼の思惑に見事引っかかったなんて、その時は考えもしなかったんだ。

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