✦ ページ28
✦
距離が近くなることをいい事にじっと化粧を終えた彼女の顔を見つめる。
普段化粧が上手ではない彼女は今年の春辺りからてるちゃんの彼女に似合うメイクの仕方というものを教わっているらしい。
丁寧に時間をかけているからなのか、上達しているからなのか、……はたまた俺が彼女の事を好きなだけか、いつもより綺麗に見える。
「ッ」
「耳、触れただけだよ」
「ぁ、あ、うん、そう、だね」
そういえば耳、弱かったんだっけ。
キュッと唇を噛んで声を出さないようにしている彼女。
必死なその顔も可愛い。
「待って。つけるんだから」
「ぅ、ん」
「動かないの」
「う、……んっ、」
自分の身体が動いてしまわないように前で腕を組むが、残念ながらピクピクしてしまっている。
このまま構ってあげていたいが、せっかくの誕生日。
もっと楽しいところに連れていきたい欲が勝ってしまった今、素早くイヤリングをつけて「出来たよ」と鏡の方を指さす。
やはり、見立て通りよく似合っている。
「ありがとう。ばぁうくん」
「ん、いいよ。……それよりもう準備OK？」
「うん。大丈夫……、です」
「よし、じゃあ行くか」
「えへへ。ばぁうくんとドライブ」
語尾に音符マークでもつきそうなほどルンルンな彼女。そんな単純な所も好き。
「あ、……ね。その前にキスしたいんだけど」
「んぇ、」
「嫌だった？」
「う、ううん。全然……！
全然、嫌じゃないけど……、きゅ、急だね」
「急には、いや？」
「っ、」
ひゅっ。と息を少し飲み込むような音が彼女から聞こえる。何か意気込む時にするその呼吸音が何となく好きで、たまに聴きたくなる。
癖になっちゃってるのかな。
彼女から聞こえる音も。このキスも。
何度口付けても飽きない唇。さっきまで触っていた耳をもう一度包み込むように触れながら、覆う。籠った音で自分がどんな音が好きなのか自覚させるように、そのまま食らいついた。
「んッ」
「────……、」
あーあ。本当に可愛い。
どうしようもなく可愛く見える目の前の子。
だからこそたまに俺の方が好きなんじゃないかと不安になってしまう。
そんなこと、ないよね。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 49人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Stellar | 作成日時：2024年1月28日 14時
