水中恋歌／ばぁう (ページ10)

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　右も左も分からず、どちらが正解の場所なのか分からない。寒い雪国を彷徨うだけの彼女。

(どこにもいない……)
(離れ離れになっちゃったのかな……)

　彼女にとっての不運。こんな冷たい世界でひとりぼっちだと過去の苦く苦しい思い出が蘇ってくる。

「……、また、ひとりぼっちだ、」

　過去にも同じような経験がある。早くに両親を亡くし、幼い彼女の事を良く思っていない親戚たちの家をたらい回しにされていた。

「……｡ばぁうくんに、会いたいよ」

　どこにいるの、と切ない声が真っ白な世界に落ちる。

　すると目の前に一筋の光が現れた。眩いその光に目がくらみ、瞳をぎゅっと閉じる彼女。

　リン────。

　鈴の音に似た音の後、光がどんどん消えていく。また、どこかに移動してしまったんじゃないかと期待をしたが、場所は同じまま。

「え、」

　ただ、先程光が当たっていた空間に手のひら程の雪の妖精が目の前に居た。昔見たピーターパンのお話に出てくるティンカーベルにそっくりだ。

『……！』
「え、……わ、……よ、妖精？？」

　ついに幻覚まで見え始めてしまった。寒さで脳が限界を迎えてしまっているのだろう。

　この世のものとは思えないファンタジーなその姿を見て自分の頬をつねった。

「いひゃい、……夢じゃない……？」
「でも、なんで、妖精……？」
『ーーっ！！』

(妖精なんかじゃなくてばぁうくんが幻覚でもいいから現れてくれたら良かったのに……)

　残念ながらさほど興味のない妖精が現れたところで彼女はちっとも嬉しくない。
　そんな彼女の感情を読み取ったのか妖精は少し怒りながらリンリンと音を鳴らしながら彼女に話しかける。

「わっ、わっ、……な、なに」
「痛い、いたいよ」

　ポコポコと彼女を叩きながら、服を引っ張る妖精。どうやらこっちに着いてこい！という意味らしいのだが妖精の言葉を理解していない彼女からしてみれば意地悪をされているようにしか見えない。

「やめ、やめて……っ、痛いよ」
『〜〜〜！！っ、……！！』
「な、なんなの……？？」

　妖精は彼女の言葉を理解しているようで、服を引っ張りながら目的の場所へと指を指す。