水中恋歌／ばぁう (ページ8)

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　行き道でチラホラと花火が上がり始める。
　それを少し立ち止まって見た景色もなかなか良かったが、穴場スポットの神社は思っていたよりも見通しが良かった。

「本当にいい所じゃん。誰も居ないし、街頭少ないから綺麗に見えるね〜」
「うん。すごくキレイ……っ」

　外でこんなにイチャイチャ出来るのも珍しいことで、誰も居ない事をいいことに寄り添いあって花火を見る。ただぼーっと花火を見つめているのも風流で、隣に好きな人がいるというのも最高だ。

「足疲れてない？少し座る？」
「うん」
「ちょっと待ってな、……。ん、はい。はらったから座れると思うけど」
「ありがとう」

　神社のお賽銭箱の前にある階段。
　そこに控えめに座った2人は買った物を置いて、再度花火を見る。

「そういえば、なんでこんないい所なのに穴場スポットなんてのになってんだろ。……普通もっと取り上げられても良くない？」
「あっ、なんか噂があるみたい」
「は？噂？」
「うん。神隠しにあっちゃうんだって」

　ケロッとした顔で平然と言う彼女の言葉には「は？」と声を出してしまう。

「は、え？神隠し？」
「うん」
「え、そんな怖い噂あるのに連れてきたの？？」
「？ごめんなさい……？」
「わけ分かってないのに謝るのやめてよ。ちょっと、怖いじゃん」

　そっか、ばぁうくんは神隠し怖いんだ。
　なんて改めて知った彼女は「別のところに移動する……？」なんて聞いてみるが、今更すぎる提案だ。

「はぁ、いいよ、別に。呪われちゃったらお前のせいだからね」
「神隠しは呪いじゃな……」
「口答えー？」

　ごめんなさい、と落ち込みながら謝る。

　夜空に大きな花火が上がって、邪魔の入らない境内でスっと彼女の頬に手を伸ばした。

「……────A」
「へっ、」

　目の前の彼と、もうひとつ。
　別の幼い声が彼女を呼ぶ。

　あと少しで唇が触れてしまいそうな距離になった時、凍えてしまうような冷たい風が吹いた。

「こっちにおいで」

　彼に似たその声に導かれるように、彼女は意識を手放した。