水中恋歌／ばぁう (ページ6)

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「あ、して。あー」
「あー……んっ、」

　まるで親鳥が雛鳥に餌を与える時のようにかき氷を彼女の口に運ぶばぁうくん。口の中で消えてしまうそれは楽しむ暇もない。

「ん、……ばぁうくんは食べないの？」
「んー？いいからお前食べなよ」
「んん、」

　お腹は減っているが、それよりも今は左手を繋いで、右手でりんご飴を握っている彼女のお世話をしていたかった。

　口を開く度、かき氷の着色料で舌が赤くなっていくのも面白い。

「どんどん俺色に染まっていくじゃん、お前」
「んんッ」
「あ、こら。ストロー噛まないの。歯立てるな」

　ばぁうくんの少し低くなった声が怖くて口に力が入ってしまった。反省して薄く口を開いた後、スっと噛んでしまったストローを抜き取られる。

「俺も一口もらっちゃお」

　見せつけるように先程彼女が噛んだ場所を咥えて食べるばぁうくん。別に出さなくてもいい色気がその姿から溢れ出し、恥ずかしくなった彼女は目を逸らす。

　いつもならここで「よそ見すんな」と忠告が入るのだが、今日は彼女の方が先に声を出した。

「あっ、ばぁうくん、もうすぐ花火上がっちゃう」
「ん、もうそんな時間か……。あー……あっちは人多そうだね」
「屋台は少し人が減ったみたいだよ……？」
「なに、もしかしてまだ食べたかったの？」
「あっ、ううん」

　自分ばかり口にしている気がして、ばぁうくんも何か食べなくていいのか気になってしまっていた彼女。
　最悪彼は彼女をおいしく食べるつもりなので本人はそこまで気にもしていなかった。

「飲み物は？ラムネとか売ってるけど」
「うん。ばぁうくんが飲むなら、飲む」

　これで飲まないなんていう選択肢を取れば彼女は意地でも飲まないだろう。
　下手に熱中症になってもらっても困るので、仕方なく氷水で冷やされた甘ったるいラムネを2本買った。

「これ、持てる？無理だったら1回手離すか」
「持つ」

　可能性ではなく断言するあたり、彼女が素直で笑ってしまう。