水中恋歌／ばぁう (ページ4)

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　慣れない下駄で階段を降りていけば、先にばぁうくんが入口付近で待っていた。

(かっこいい……、)

　たまたま今回の夏の等身ビジュアルで着ていたような模様の浴衣が置いてあり、速攻で決まったそれ。

　現実のばぁうくんが着ていても違和感がないというか、もうそれを着こなせるのは世界できっとあなた1人しか居ないだろう。

「ん、……来たなら声かけてよ」
「あ、ぅ、ばぁうくんがかっこよくて……」
「……なに？かっこよくてのその次は」
「っ、ち、近いよ、ばぁうくん」

　彼女が照れているのをからかうようにして顔を近づける。後数cmで唇が触れてしまいそうな距離で止まる、焦れったい距離に息を飲む。

　傍から見ればただ複数いるうちのカップルとしか思われないだろうが、近くにリスナーさんがいるかもしれないと少し離れる彼女。

「……ばれ、ちゃうよ、」

　2、3歩ばぁうくんから離れた後、夏祭りの会場の方へと向かう。そんな彼女の後ろ姿を見て少し寂しそうな顔をした。

　仕方の無いこと。
　理解力のある彼女だと思えば聞こえは良いがその分、我慢をさせていると思うと可哀想に見えてくる。

「？ばぁうくん？」
「今日、可愛いね。やっぱりその浴衣似合ってる」
「あ、えっ、」
「それから髪も。……帯もいい感じだし、少しいい匂いもする」

　直ぐに彼女の傍に近づいて、自然な流れで指を絡ませた。それだけでドギマギと心臓がまた早くなる彼女は瞬きを続ける。

　さっき近いと注意したばかりなのに、簡単に縮まる距離。

「これ、なんの匂い？」
「あ、……えっと、前にばぁうくんに、貰った、香水で……」
「へぇ、つけてきてくれたんだ。ありがとう、もっと近づいていい？」
「！ばぁうく、バレちゃ、」
「あ？いいだろ。俺がいいって言ってんの、歯向かうつもり？」

　ギュッと喉元が絞まるような感覚と瞬きを忘れ、目を見開く彼女。その追い詰められた時の顔が好きで、花火とかどうでもいいから独り占めしていたくなった。