水中恋歌／ばぁう (ページ3)

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　2階に上がった彼女は店員さんに説明を聞いて、直ぐに隅の方の席を確保した。服を脱いで、幼い頃に残った火傷の痕を隠すように肌襦袢を腕に通す。

　1人でできる所まで自分で着替えていれば、隣に居る2人組の女の子たちがお喋りをしていた。

「ねぇ、そういえば知ってる？花火が見られる穴場スポットがあるらしんだけど」
「え、何それ。無料なの？」
「無料無料〜」

　何となく耳に入った言葉。『穴場スポット』という言葉を聞いて彼女はばぁうくんと2人っきりになれそうだと思っていた。

「え、それどこ？」
「なんか少し離れた神社らしいんだけど、人もいないし辺りが暗いから花火映えるって〜」
「めっちゃいいじゃん」

　高校生くらいだろうか。
　砕けた喋り方に幼さを感じる。

　けれど顔を見ればもう大人っぽい雰囲気が出ているため、実際の年齢は分からない。

「え、じゃあ祭り行った後そっち行く？」
「やー、でもねー。なんか変な噂もあるんだよ」

(変な、噂……？)

　まるで彼女も会話に参加しているみたいだ。
　1人の女の子が言った言葉に首を傾げる。

　どうやらその神社には人が寄り付かない理由があるらしい。

「えー？なに。急に怖い話ー？そういうの無理なんだけどー」
「なんか神隠しにあっちゃうらしいんだよねー」
「ねー、無理って言ってんじゃん。話聞いてる？」

　キャッキャとそれでも楽しそうに会話を続けながら隣に居た2人組はヘアセットの方へと向かってしまった。

(……神隠し、)
(神隠しって、子どもがさらわれちゃうみたいなやつだよね……、確か)

　ギュッと腰辺りを紐で結んで、店員さんにお手伝いされながら赤いレースの浴衣を着ていく。黒い帯に白のチュール飾りがついたそれを見て店員さんが「お似合いですよ」と声をかける。

「ありがとう、ございます」

　オカルトやホラーなどを信じていない彼女。
　ましてや彼女の中での神様はばぁうくんであった為、神隠しの話を無視して彼を誘おうと決意した。