水中恋歌／ばぁう (ページ14)

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「やめてよ……っ。そんなことしたら壊れちゃうじゃん……！！」
「でも。……諦めたって……」
「！」

　砕けないのならば仕方がない。彼女は早くここから出て彼氏のばぁうくんに会いたいのだ。だから1秒だって無駄には出来ない。

(てっきり暖かくなったら解決すると思ったのに……)

　この場所が元通りになればさっさと出られると思っていたのに。

「……諦めてないんですか？」
「え」
「壊されるのがいやだったみたいなので……」

　諦めてどうでもいい夢ならこんな綺麗に飾ることは無いだろう。それこそ、その辺に転がった小さな青い宝石のようにぞんざいに扱ったりするはずだ。

「諦めたくないのではないですか？」

　過去に人に無理だと言われて諦めてしまった夢がある。彼女はそれを叶えることはやめ、夢を破り捨ててしまったが、目の前にいる男の子はそうでは無い。

「なんで、そんなこと……っ」
「私の。好きな人が言ってました」
「？」
「『誰に笑われても絶対に夢を叶える』って」

　付き合う前の頃、ばぁうくんは自分の実力が足りないと思い悩み情緒不安定な時期があった。自信満々な彼が裏では弱く、1人で苦しんでいる姿を見た時に「そんなに苦しいなら逃げればいいんじゃないですか」と聞いてみた事がある。

　すると彼は「この夢だけは逃げたくない」と力強い目でそう言い放った。

　逃げてしまった過去がある私と彼。私はその時からもう全てのことを諦めてしまっていたけれど、ばぁうくんは無我夢中で夢に手を伸ばしていた。

(その時すごく、すごくかっこよかった)

「夢の叶え方は、誰かに何か言われたからじゃなくて
　自分を超えるためにあるんですって」
「自分を、超える……、」
「赤色、似合うと思います」
「！」

(ばぁうくんの次くらいに)

　確かばぁうくんも戦隊モノの主人公の赤色が好きだったけど、なれないからと青色を選んでいたという昔話があった気がする。

(青色のばぁうくんって、なんか、想像出来ないな)
(私の中ではいつもばぁうくんは主人公だから)

　その主人公に救われた。
　きっと彼に『救った』なんて自覚はないんだろうけど。