【完】One Knight / KnightA + Y (ページ19)

今日:26 hit、昨日:14 hit、合計:31,019 hit

獲物ページ19

✦

　どかっと勢いよく座って足を組む赤髪の男性。ゆらりと向けられた金色の瞳が私を捉えた瞬間に、ふっ、と口元を緩ませる。やばい。本能がそう叫ぶほど逃げなくてはと思うのに、もう捕らえられてしまった私は逃げられない。

　赤いカラースーツに右手と左手、それぞれにいかつめのリングをつけた彼はほんの少し距離を詰めて話しかけてきた。

「これ。……名刺ね。『ばぁう』って言うから、好きに呼んで？」
「はっ、はい……」
「ははっ。何緊張してんの？だいじょーぶ？」

　ばぁうくんが余裕たっぷりで私に問いかけるのに対して、心臓は加速する一方。余裕のない今の私にとって目の前にいる彼は危険なのだ。

　ただの流し目。それに色気だけを詰め込んだみたいな甘ったるい感じ。触れられても、変に距離が近いわけでもないのにその獲物を狩るような瞳が私を女にする。

「だっ、だいじょうぶ、で、」
「ふーん。大丈夫なんだぁ。そっか。なら、もっと近づいても大丈夫そ？」
「えっ！？」
「ほら。この距離は？だいじょーぶ？」

　無理。なんなら一個前での距離でもだいぶ無理があった。一歩一歩、私の様子を伺うようにして詰め寄るばぁうくん。あぁ、逃げなくちゃ、取り返しがつかなくなりそう。そう思った時には時すでに遅し。

　ばぁうくんが腕を伸ばせば掴まれてしまう。
　完全に彼のテリトリーに入ってしまった私はなるべく大人しくして五分を切り抜けるしか方法はない。

「っ、」
「あ。……ははっ、無理そうだねー。へぇ、まだ触れてもないし近いわけでもないのに、もう無理なんだぁ。かわいいね」
「かっ、」
「ねえ」

　少し圧のある『ねえ』。

　金色の瞳が店の照明でギラギラと輝いて、彼の白い手が私の頬に触れる。リングの冷たさと彼の温度の差が激しい。いや、お酒で火照ったのもあるせいで、色んな温度が混じり合う。

「かわいくて、今すぐ俺のものにしたいから、いじめてもいい？」
「へっ？」
「誰かのものになる前にさぁ、食べ尽くしたい、お前のこと。ねえ。いいでしょ？そうされたくて、さっき大丈夫じゃなかったのに『だいじょうぶ』なんて言ったんでしょ、ねぇ。……ぜーんぶ分かってるから、さっさと俺のものになりなよ」