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「うん、……そうだ、『お見送り指名』の事は聞いた?」
「お見送り、しめい?」
「あれ? ちゅちゅ、説明するの忘れてるな……。
ま、いいや。『お見送り指名』って言うのは、今日一日で一番好きだなって思った人。一人を指名して、エレベーター前までお見送りをしてもらうことだよ」
「……そう、なんですね」


 それはそれは、ご丁寧に、どうも……。

 つまり今日私を担当してくれた人達の中から一人選べばいいってことか。何から何まで指名指名って大変だけど、最後の最後まで好きな人と一緒に居たい女の子はそういうものなのかも。普通にカップルでも『バイバイ』まで一緒に居られたら嬉しいものだ。


 グッと、急にまた距離が近くなる。


「へっ、」
「君がもし、俺のこと少しでも覚えてたら選んでほしいな。……もっと、一緒に居たいから」
「っっ」
「約束、してくれる?」
「ぁ、うっ、」


 そうまさんにそう言われるまでは正直、ここへ連れてきてくれたカレを指名するつもりだった。恩返しと永遠に『バイバイ』するために。それが、今、たった五分の会話を通して揺れ動く。

 『うん』と首を縦に振る罪悪感がある。あのわんこみたいな水色の男の子に申し訳ないと思ってしまうのだ。







「そまちゃ。もう時間だよ。それと、近い。その子困ってるよ?」


 女の子の声かと一瞬疑ってしまう程愛らしい声に顔を動かせばピンク色の髪に緑色の綺麗な大きな瞳が特徴的な男の子が立っていた。目が合えば「ふふふ」っと悪戯っぽく笑う男の子。可愛いに分類されるはずなのに、しっかりと男としての魅力もある。


 ここのホストの基準、全部バグってる気がするんだけど……。


「あーあ。もう少しで返事、聞けそうだったのに。邪魔が入っちゃった」
「あ、えと、」
「少しだけ期待してる。
……俺を選んでくれるって」


 『バイバイ』とも『またね』とも言わないそうまさんはその一言だけを残して去っていく。


 ズルい、ズルすぎる。

 大人の余裕と男の強引さが同時に見えた瞬間にぐらぐらと簡単に揺れ動く。

 触れた手のひらが熱い。

 ドクン、ドクンと脈打つのを感じながら、さっき教えてもらった深呼吸で、どうにか落ち着かせるしか私には出来なかった。



嫉妬→←**



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作者名:Stellar | 作成日時:2022年10月23日 12時

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