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「霊がついてきたんだ」
確かに森はそう言ったんだ。微動だにせず、一点を見つめたまま。……焦点があっていない人間は不可解っていう点で不気味に感じるけど、逆に一点だけ集中しているのも不気味だったよ。形容しがたいけど、恐怖っていうのものがあったというか。でも、そういうものって目線が外せなくなるよね。だから珍しく森のことをじっと見てしまったんだけど、よく見たら唇が紫で――汗もびっしょりでさ。
でも、信じがたいじゃん。だって、" 息子が自死した "なんて話はおろか、" 母親が殺された "なんて話もないんだから。それってつまり、幽霊なんかもいないってことでしょ。
「保健室に行ったら？」
って軽く勧めたんだけど、心ここにあらずって感じで……僕の言葉なんて届いていなかったみたいだね。結局 その後は一言も発さなかったから、僕も自分の席に戻ってその日は授業を終えたんだ。
それがその日だけで終わればよかったんだけど、次の日も、またその次の日も具合が悪そうで。でも学校には来るんだよね。珍しく真面目に授業を受けて、十分休みにいたっては参考書まで読んでて、なんだか人が変わったみたいだったよ。
でも体調は悪そうだから、いつか倒れるんじゃないか、っていうくらいフラフラしてるから、クラスメイトはもちろん教師からも心配されてたよ。顔色も土色の日もあれば、青ざめてる日もあるし……。隈もできていたから寝不足だったのかな。とにかく死人みたいな顔で学校に来るようになってきて――ついに、芥屋に声をかけられたんだよ。
「森の様子がおかしいから話を聞いてみようよ」
って。……まあ、本当に霊に取り憑かれたのだとしたら原因は明白だし、自業自得だと思ったんだけど……芥屋は友だち思いなんだろうね。僕も霊がいるのならと思って、二人で森のところに行って尋ねてみたんだよ。いや、森に話しかけたのは芥屋で、その後の会話も芥屋と森で成り立っていたけどね。
「最近具合が悪いけど、どうしたの？」
森はすぐには答えなかったよ。答えれなかったというべきかな。疲労が溜まっている姿が目に見えていたから、たぶん頭がすぐに働かなかったんだろうね。それでもなんとか力を振り絞って口を動かして教えてくれたんだ。
「……叱られる」
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作者名：リ | 作成日時：2022年8月28日 21時
