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そう言って、商品が乗せられている台の上に飛び乗って、器用にチョコバナナを1本、串の方を咥えて神崎さんの手に握らせました。
チョコレートの甘い香りとカラフルなチョコスプレー、提灯の光に照らされてツヤツヤと光るそれは、空腹ではないとはいえ神崎さんの食欲を湧き起こすのには十分な程に魅力的でした。
お祭りの屋台に出ている食べ物ってとっても不思議です。ほとんどはいつも食べ慣れているようなものばかりなのに、お祭りの雰囲気に呑まれるせいか、どこか特別感があるんですから。ちょっと美味しく感じるのも面白いですよね。

お代を払ってもいないものを食べてしまってもいいのだろうか、何か毒などは入っていないのだろうか、そもそも狐が作ったものだぞ。
そう脳では理解していても、その美味しそうな見た目に抗うのはどうにも辛いことでした。もっとも、本来立ち入り禁止区域のような場所である神社にいるくせにそのあたりは躊躇うのか、という疑問も湧きますが。
そして神崎さんは、本能から来る警告も無視して、それをひと口かじりました。

「……普通だ。でもやっぱり美味しいな」

……チョコバナナは特別美味しいというわけでもなく、かと言ってまずいというわけでもなく、ただただ普通のものとなんら変わりない味。それにほんの少しがっかりしながらも、なんだかんだ言って丸々1本食べてしまう神崎さんでした。

そして狐は神崎さんの様子をちらりと見ると、突然コーンと甲高く鳴き声を上げました。神崎さんは驚いたことでしょう。けれど周囲の狐は別段変わった様子は見られず、少し経つと彼らも共鳴し出しました。びっくりしちゃいますよね、こんなの。先程まで祭りを楽しんでいた神崎さんも、この異変とも呼べるどんどん大きくなっていく狐たちの鳴き声には流石に恐怖を感じ始めたのか、その場を離れてすぐに帰ろうと身を翻しました。
「もしかしたら神社から出られないかも……」という一抹の不安が彼女の脳裏を過りましたが、そんな懸念とは裏腹に、神社からは思いのほかあっさり出ることができました。鳥居を抜けた途端、先程まで狐の鳴き声で埋まっていた周辺がしんと静まり返るのが分かります。一切の音が消えたんです。神社を出る直前まで悲鳴のごとく鳴き声が空気を満たしていたというのに、たとえ神社の中にいないとはいえ、こんなに近くにいるのに。
それが一層不気味さを強調させて。

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作者名: | 作成日時:2022年8月28日 21時

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