【31】SideM ページ37
穏やかな波辺に、突然聞きなれたバブのエンジン音が鳴り響いて振り返る。
妙な嫌な予感は的中するようで、後ろには見慣れた二人が立っていた。
「あ、三ツ谷見っけ。ケンチンこっちこっち〜」
「よ。しけてんな」
「あ？なんでオマエらまで来てんだよ」
「三ツ谷のインパルスの音聞こえてさ。一人で走っててもつまんねーだろ？」
無遠慮に隣に座ってくる二人に毒気を抜かれる。
どうやら二人には感傷に浸らせてやろうという気はないらしい。
この二人にそんな気遣いをされる想像もつかないから、つまりそういうことなのだろう。
暫く、誰も何も言わなかった。
波の打つ音だけが穏やかに響いている。
「オレさ」
最初に口を開いたのはマイキーだった。
マイキーの黒い瞳にはしっかりとオレが映っている。
後に続く言葉を待てば、マイキーはどこからか取り出したどら焼きを口に放り込む。
ぽかんとするオレなんてまるで気にしていないような顔で、マイキーは言葉を続けた。
「三ツ谷はなんも許す必要ねーと思う」
「は？」
「だから、なんも許す必要ねーって」
「いや、オレは別に何かに怒ってるわけじゃ」
「じゃあ怒れよ」
「はぁ？」
「好きなやつ殺されてんのになんで怒んねーの」
Aが殺されたと言われた時。
Aの死体が見つかった時。
目の前が真っ暗になって、うまく呼吸が出来なかった。
でもそこにあった感情は怒りなんかじゃなくて、失意と、悲しみと、後悔と、そればかりで。
第一、マイキーが何を求めているのかがわからない。
怒り？怒ってどうするんだ。
誰に怒りを持ったって、彼女が帰ってくるわけじゃない。
帰ってくるわけじゃないのに。
「…あ」
そこまで考えて、気が付いた。
オレは、オレが許せなかった。
「三ツ谷は賢いからさ、切り替えうめーんだよ。でも苦しいじゃん。ケンチンもそう思うよなあ」
「どら焼き食いながら聞くな」
ぼろぼろと口元からこぼれた餡子を拭ってやれば、マイキーは満足そうに眠り始める。
どこまでもマイペースなマイキーに苦笑しか出ないものの、もう、行き場を無くした感情を前に迷子になることは無さそうだった。
「三ツ谷」
「あ？」
「マイキーなりに心配してたんだぜ」
「わーってる」
今は何も許せないし、
悲しみも、失意も、なくならないけれど。
いつか全てを受け入れて、俺にはあいつがいたんだって胸を張れるようになったら。
(その時は、花束を持って会いに行くよ)
今日はまだ少し、海の音を聞いていたかった。
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花蘭(プロフ) - 全然読みにくくなんてなかったです。言葉１つ１つがより作品に引き込ませてくれて、とても感動しました。素敵な作品をありがとうございました！！ (2021年8月31日 17時) (
レス) id: 7a9bcca966 (このIDを非表示/違反報告)
やま - 最高でした。素敵な作品をありがとうございます。 (2021年8月30日 21時) (レス) id: 8661ddee6b (このIDを非表示/違反報告)
あおちゃん(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございます (2021年8月29日 17時) (レス) id: 5ff916f516 (このIDを非表示/違反報告)
優菜(プロフ) - とりま泣きました。ありがとうございます (2021年8月29日 5時) (レス) id: f74092ff06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴海 | 作成日時：2021年8月26日 16時
