【28】SideM ページ32
頭を殴られたような感覚はしなかった。
少しだけ寂しそうな顔をして彼女が教えてくれただけで十分だった。
会いに向かえば会える距離で過ごせる最後の日は目と鼻の先。
言葉を選びながら、先ほどまで小指で繋がれていた手に触れた。
オレがもう少し大人だったら、この手を取って「一緒にいよう」って言えたのかもしれない。
生まれた年を早めることなんて出来ないから、ただの夢物語でしかないけれど。
「…あんまりすぐには会えないと思うけど、私しっかりバイトするし、お金も貯めて会いに行くね」
「…おう」
「寂しくなったら電話してね」
「寂しくなるのはAの方だろ」
「どうかなあ」
夕日でオレンジ色に染まり始めた海を見ながら、元来た道を引き返す。
つないだ手はそのままで、足元にかかる水が冷たい。
水面に揺れる夕日がきれいで、なんだか小説でも読んでいるような気持になる。
帰り道がうんと長くなればいいと思いながら乗ったインパルスは、ウォンウォンとエンジン音を鳴り響かせながら道路を進む。
離れないようにとオレにしがみついて、頭を背中にくっつけていた彼女が言葉を紡いだ。
「この音が聞こえたらさ、三ツ谷くんのインパルスだ〜ってすぐわかるの。嬉しいんだ。近くで走ってるってわかるから」
「俺の子猫ちゃんは世界一だからな」
「間違いないね。これからも大事にしてあげて」
「言われなくても」
帰りたくなかった。
返したくなかった。
「三ツ谷くんはこれからも東卍？」
「当たり前だろ？初代どころか創設メンバーだぜ」
「三ツ谷くんはやっぱりすごいね。…、ね、どうせだったらさ、誰よりもかっこいいやつでいてよ。かっこよくて優しいの。最強じゃん」
ずっと、考えないようにしていたことがある。
自分と彼女の関係について。
惚れているわけじゃなかった。
顔中痣だらけにしても涙の痕一つない彼女のことが気になって、何を考えているか知りたくて。
そうして接していくうちに、オレは。
「A」
「なに？」
「オレ、さ」
気がついた頃には、心奪われていた。
誰よりもボロボロで、その癖弟を自分の体を張って守るようなこともする。
深く考えているようで考え無しで、誰よりも優しいところも好きだった。
「三ツ谷くん」
遮られるようにかけられた言葉を待つ。
サイドミラーに映った彼女の耳は、少しだけ赤かった。
「君が大人になったらさ、インパルスで迎えに来てよ」
背中に触れた額が熱い。
返事の代わりに、エンジン音が空に響いた。
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花蘭(プロフ) - 全然読みにくくなんてなかったです。言葉１つ１つがより作品に引き込ませてくれて、とても感動しました。素敵な作品をありがとうございました！！ (2021年8月31日 17時) (
レス) id: 7a9bcca966 (このIDを非表示/違反報告)
やま - 最高でした。素敵な作品をありがとうございます。 (2021年8月30日 21時) (レス) id: 8661ddee6b (このIDを非表示/違反報告)
あおちゃん(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございます (2021年8月29日 17時) (レス) id: 5ff916f516 (このIDを非表示/違反報告)
優菜(プロフ) - とりま泣きました。ありがとうございます (2021年8月29日 5時) (レス) id: f74092ff06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴海 | 作成日時：2021年8月26日 16時
