【20】 ページ24
ずっと、果ての無い水槽で泳いでいた。
それは、泳いでも、泳いでも、先が見えなくて、暗くて冷たくて静かだった。
がたがたと震える母の肩は小さい。
私と弟の名前を繰り返して、何度も何度も謝罪と後悔の言葉を並べる口からはよだれが垂れていた。
私を見つめているはずのその瞳に映っているのは私のようで私では無くて、この人は私を通して何を見ているのだろうと頭の片隅で考える。
母は、私たちを愛してくれている。
その愛に応えられない私たちが悪い。
不安定な母のすべてを受け入れてあげなくちゃ。
母には、私たちしかいないから。
「ごめんねA、ダメな母さんでごめんね」
「いいよ母さん。だめな母さんなんかじゃないよ。母さんのこと、私はだいす、」
「でも」
遮るように途切れた言葉
重ねられた声に明確な憎悪を感じてヒュッ、と息を呑み込んだ。
「あんた達がいなかったら、母さん、こんな風になってないはずよね」
愛さなくちゃ。
守らなくちゃ。
母さんは私たちを愛してくれているから。
そうやって積み重ねてきたものがガラガラと音を立てて崩れ落ちるのを肌で感じる。
愛してくれているなんて妄想で、本当は愛してほしかっただけで
守ってあげているなんて勝手な想像で、本当は自分の身を守るのに必死だった。
「あ、姉貴、」
「逃げて」
「え？」
「頼れる親戚なんていないと思うから、ひとまず仲間のところにでも行ってて」
「姉貴、
「あんたまだ中学生なんだから、警察には気を付けて」
「でも俺」
「いいよ。姉ちゃん一人で大丈夫。ガキのくせに、変なところで格好つける必要ないんだよ」
涙を目にいっぱい溜めたきょうだいは、いつも使っているらしいボロボロの鞄を抱えて走り出す。
母はそれを憎らしそうに見つめて、それから唾を巻き散らかしながら私に怒鳴った。
何度も頬を平手で打たれ、灰皿で殴りつけられる。
怒りで我を忘れているのか、言っている内容は意味不明で脳が理解をしてくれない。
「ンで、あたしが、こんな目にッ、あわないとッ、いけないんだよッ！」
「ぐ、…っふ、母さん、」
「クソ、産まなきゃよかったお前らなんて！」
「かあさ、」
鈍い音がする。血を流しすぎた。
視界全てがぼんやりとぼやけていて、ぼたぼた顔中に落ちるのは母の涙か涎かもわからなかった。
漠然と、このまま死ぬのだと理解できた。
足掻く気持ちは無かった。
なんだか凄く、疲れたから。
ゆっくり目を閉じようとしたその瞬間
古びた扉の蹴破られる音がした。
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花蘭(プロフ) - 全然読みにくくなんてなかったです。言葉１つ１つがより作品に引き込ませてくれて、とても感動しました。素敵な作品をありがとうございました！！ (2021年8月31日 17時) (
レス) id: 7a9bcca966 (このIDを非表示/違反報告)
やま - 最高でした。素敵な作品をありがとうございます。 (2021年8月30日 21時) (レス) id: 8661ddee6b (このIDを非表示/違反報告)
あおちゃん(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございます (2021年8月29日 17時) (レス) id: 5ff916f516 (このIDを非表示/違反報告)
優菜(プロフ) - とりま泣きました。ありがとうございます (2021年8月29日 5時) (レス) id: f74092ff06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴海 | 作成日時：2021年8月26日 16時
