【19】 ページ22
自分を守れなくても、家族を守れるようになりたかった。
ある種憧れていたんだと思う。
自分より年下の、バイクをかき鳴らして走るあの男の子に。
「このッあばずれ！テメーをッここまで育ててやったのは誰だと思ってんだよッ」
全身の打撲痕が鈍い痛みを伴って襲ってくる。
殴られた衝撃で頭が切れたのか、どろりとしたものが額を伝う。
既に反抗する気もないのか、部屋の隅で頭を抱えて座り込んだ弟を庇うみたいに前に立った。
それが気に入らなかったのだろう。
また二度、三度と殴打されて倒れ込む。
ぶつかった衝撃で落ちた酒瓶が地面にぶつかって粉々に砕けた。
大きな音が鳴ってびくりと背中が揺れる。
また退去しろって言われちゃうかな。妙に冷静で冴えた頭でそんなことを考えた。
母は精神的に不安定な人だった。
誰が悪いかと聞かれれば結局己の父親に帰結してしまうけれど、もういない人間を恨んでも何も変わらない。
母も寂しい人だ。
自分の中の何かを埋めるためなのか、実際どう思っているのかは私たち姉弟にはわからない。
ただ事実として、仕事から帰ってきて酒を浴びた母はいつも私たちにつらく当たった。
私たち姉弟の約束。
母は弱い人
弱い人だから、私たちが守ってあげなくちゃ。
痛くても、悲しくても、我慢しよう。
いつかきっと、優しい母に戻ってくれるはずだから。
昔からずっと、弟と二人きりになる度にそう話した。
一種の呪いだった。
次第に心根は歪んで、いいように使われることを「必要とされている」とすり替えて
恋は盲目だなんて言い訳をつけながらそこにあった虚構に恋愛感情と名前を付ける。
弟は年を重ねるごとに、逃げるように悪い仲間とつるみ始めた。
呼吸の仕方がわからなかった。
この世界が水中だったなら、私はきっととうに水面に浮かんでいる。
「母さん、落ち着いて」
「う…う…うるせえッ！このクソガキッそんな目であたしを見てんじゃねぇよ！」
何度も、何度も。
耳を塞いで縮こまる弟に笑いかけた。
怖がらないで。私が守るよ。
目の前で震える弟はまだ小さな男の子だった。
ほらね、逆だよ、三ツ谷くん。
まだ中学生の君を、守るべきなのは私のほう。
殴られた衝撃で切れた口の中が鉄の味で満たされる。
母の長い爪が引っ搔いた私の頬の肉をえぐった。
「ア…ちが…A、違うの。母さん、二人のこととっても愛してるの。嘘じゃない、ほんと、ほんとなの…」
縋るように泣き出す母を抱き締める。
呼吸の仕方は、忘れてしまった。
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花蘭(プロフ) - 全然読みにくくなんてなかったです。言葉１つ１つがより作品に引き込ませてくれて、とても感動しました。素敵な作品をありがとうございました！！ (2021年8月31日 17時) (
レス) id: 7a9bcca966 (このIDを非表示/違反報告)
やま - 最高でした。素敵な作品をありがとうございます。 (2021年8月30日 21時) (レス) id: 8661ddee6b (このIDを非表示/違反報告)
あおちゃん(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございます (2021年8月29日 17時) (レス) id: 5ff916f516 (このIDを非表示/違反報告)
優菜(プロフ) - とりま泣きました。ありがとうございます (2021年8月29日 5時) (レス) id: f74092ff06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴海 | 作成日時：2021年8月26日 16時
