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向井を先生に預けた阿部は岩本に連絡した。連絡を受けた岩本は家に居た全員を連れて病院に来た。深澤だけは出かけていた。
眠っていたラウールは置いて行くつもりだったが、騒ぎに気付いて目を覚ましてしまったので連れてきた。
処置を終えて眠る向井を見てラウールは憔悴しきっていた。向井が何故こんな有様になったのか、彼には何も話していない。
ラウールには何も話していないのだ。あの日以降阿部が考えている事も、そもそもあの日狙われたのが誰かも。
ru「なんで康二くんがこんな目に」
ab「わかんないけど……通り魔じゃない。金狙いの」
阿部は咄嗟に出任せを吐いた。それが仇となった。彼に隠し続けるのは限界のようである。
ru「康二くんはそんな奴に簡単にやられないよね」
ab「……」
ru「誰にやられたの、阿部ちゃん知ってるんじゃないの」
ab「……」
ru「……まさか、あの日襲ってきた」
iw「ラウ、」
ab「……そうだと思う」
彼の真っ直ぐな心と推察力に観念した阿部は白状した。
ラウールは俯いた。その後放たれた一言は全員の視線を彼に集めた。
ru「……俺のせいだ」
mg「は?」
ru「俺が狙われてるんだよね」
全員の視線が交錯する。誰がラウールにその仮説を話した。そう問いかける視線が。
その問の答えを出したのはラウールだった。
ru「俺が狙われたし、そのちょっと前に家族も殺された。俺のせいで家族が殺されたか、家族のせいで俺が狙われたか、じゃないの」
彼の頭脳は誰かの告げ口など必要としていなかった。誰も否定しないのをいい事に彼は独自の考えを続ける。
ru「俺のせいで家族が殺された、だと思ってるけど」
ab「……どうして」
ru「だってあの家にいた人間の中で生きてるのは俺だけだよ。みんながあの家を襲ったのは、あそこにいる全員を殺すためだったんじゃないの? その中には俺も含まれてないと可笑しいよね? 俺の居場所を探すために家族まで殺されたんじゃないの?」
ab「ラウール」
阿部はラウールの口調から自らの仮説が正しい事を悟った。だから、問うた。
ab「お前は何を知ってるの」
ru「……阿部ちゃん」
ab「あの大臣は何を企んでいたの。あの家で何が話されていたの」
ru「……関わったら、危ないと思うよ」
iw「お前を守るためならどんな事にも首突っ込んでやるよ」
岩本の意見は全員の総意だった。
彼等のその真っ直ぐな視線はラウールの口を割らせた。
ru「……総理大臣の暗殺」
nb「は?」
ru「国家転覆の、計画」
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作者名：怜
| 作成日時：2020年8月12日 21時
