Hope In The Darkness Ⅲ (ページ16)

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「……彼女は」
dt「知らない」

母親の事だと分かって宮舘は即答した。再び沈黙が流れる。

dt「……誰に言われてやったの」

ふと、その疑問が無意識のうちに飛び出した。父親が伏せていた目をあげた。

「それを聞いてどうする」
dt「……別に、今更どうもしない」

これは本心だ。今更どうもしない。きっと今更どうにも出来ない、と言った方が正しいか。
宮舘は彼の目を見つめた。老いはしたものの、爛々とした眼光を残した殺し屋の目を。

「お前に言ったってわからないよ」
dt「そういう世界に片足突っ込んでるから有名所の名前はわかるよ」

父親は眉を顰めて宮舘を見つめると、やがて目線を下に向けて苦笑した。

「……血は抗えないのか」

その言葉で宮舘も苦笑を浮かべた。
全身突っ込んでる、と言わなければ警察か何かだと思ってくれるかと思ったが、相手はそこまで馬鹿ではない。しっかり自分が「そういう世界」の人間である事はばれたようだ。
父親は下を向いて小さなため息を吐くと、宮舘の問にようやく答えた。

「……F」
dt「F?」
「そう名乗った男に頼まれた。俺と同じくらいの歳だった」

宮舘は目を伏せて一瞬考えたが、その呼び名に心当たりはなかった。少なくとも有名人の名前ではない、気がする。
＿＿阿部に聞けば何かわかるのか?
わかってどうする、と言われればそれまでなのだが。

「……あの二人は彼のグループと関わっていたらしい」

贖罪のつもりなのか、彼は詳しい事まで語り始めた。

「関係を切ろうとしたから消す、そう言った。それ以上は知らない」

そこまで話して父親は問を投げた。

「翔太君は……どうしてる」

宮舘は父親の顔を見た。その顔には、確かに悲哀が滲んでいた。
わからない。自分の感情がどんどんわからなくなっていく。
憎い。でもそれだけじゃない。哀れみ?
違う、そんなに尖ったものじゃない。じゃあ何?

dt「……元気だよ、大丈夫」
「そうか、よかった」

目の前の殺し屋が安堵の表情を見せたのを見て、自分の感情がわかった気がした。
＿＿家族が生きている事が、嬉しいのか?
どんな人間であれ血の繋がった存在がこの世にいる事が、本能的な喜びを湧き上がらせたのかもしれない。確証は無いが。

時間が来た。その知らせを受けた父親は部屋を出ようとした。
ドアの所で彼は立ち止まり、一言だけ残した。

「……体には気をつけろよ」

宮舘は不覚にも口角を上げた。
その顔は、声は、確かに「父親」のものだった。